応えがある。
総論は、山内昌之・東大名誉教授による「ともに近代化を目指そう…『明治人の志』が台湾に奇
跡を呼んだ」で、「先が見えた男」児玉源太郎が台湾総督としてどのような志を抱いて台湾経営に
当たったのかを論じている。山内氏は児玉神社建立のエピソードなども挙げながら、そこに「日本
統治の真実が窺える」と記す。
また、この3月まで本会副会長だった京都大学名誉教授の中西輝政氏は「合理主義と廉潔な人間
性…『国づくりの達人』が台湾の近代を切り開いた」と題し、朝鮮半島の統治と比較して、台湾の
近代化を手がけ、推進した指導者に児玉源太郎がいたことは「決定的だった」と指摘している。
この総力特集では、「近代化に挑んだ六人の男たち」として、表題の児玉源太郎(江宮隆之氏執
筆)をはじめ、児玉総督の民政長官だった後藤新平(植松三十里氏執筆)、後藤の懇願を受けて台
湾糖業の発展に尽くした新渡戸稲造(松田十刻氏執筆)、烏山頭ダムを建設した八田與一(四條た
か子氏執筆)というよく知られている4人の他、台湾縦貫鉄道の敷設に邁進した「台湾鉄道の父」
と称される長谷川謹介(はせがわ・きんすけ)と、芝山巌学堂で台湾人教育に従事するも芝山巌事
件で犠牲となった六士先生の一人である平井数馬(ひらい・かずま)の2人も取り上げられてい
る。
長谷川謹介も平井数馬も、台湾に関心の深い方なら知っているかもしれないが、後藤や八田ほど
には知られていない。この2人を紹介しているのは、『台湾に生きている「日本」』や『古写真が
語る台湾 日本統治時代の50年』などで台湾関係者にはおなじみの片倉佳史氏。
その他にも、「東部開拓の父」とたたえられる賀田金三郎(かだ・きんざぶろう)や日月譚の畔
に「台湾電力の父」として胸像が建つ松木幹一郎(まつき・かんいちろう)、後に昭和天皇にも献
上されたコーヒー栽培に取り組んだ「台湾コーヒーの父」国田正二(くにだ・しょうじ)など、日
本ではほとんど知られていないものの、台湾ではいまでも敬愛されている日本人も紹介している。
その点で、目配りの行き届いた台湾特集と言ってよい。
もちろん、「台湾紅茶の父」の新井耕吉郎や「蓬莱米の父」磯永吉、「蓬莱米の母」末永仁、稲
作発展を支えた平沢亀一郎など、今でも台湾で敬愛されている日本人は少なくない。児玉総督や後
藤新平の時代には、台湾の上下水道を整備した浜野弥四郎もいる。それらの人々を紹介したら、雑
誌の特集では収まらない。
この「歴史街道」5月号のポイントは、児玉源太郎を通して「日本の台湾統治の真実」を知らし
めることにある。まずは一読をお勧めしたい。
◆月刊「歴史街道」5月号(4月6日発売 定価:680円)
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