このときの目的の一つが肉牛の飼育を視察することだった。「台湾の人々に美味しい牛肉を食べさせたい」との一念で、北海道まで足を運ばれた。
9月23日、北海道千歳の苦楽園・亀田牧場に肉牛飼育を視察された。解説した牧場主ご子息の亀田泰貴氏に、牛の育て方はもちろん、肥料や屎尿処理方法など細かいことまで尋ねられている。肉牛飼育の技術は台湾より日本の方が先を行っていて、その技術を台湾で生かしたいとの思いからだった。質問された方が戸惑うほどの細かい質問で、李元総統の新しい知識への関心は並大抵ではなく、解説者や案内人に次々と質問を投げかけ、質問された方が戸惑うほどだった。
翌々年の2016年に石垣島を訪問されたときも、その関心は石垣牛に注がれ、地元のJAが説明会と試食会を催したほどだった。
帰台後は、台湾に残っていた数少ない台湾牛を品種改良し、この台湾和牛を「源興牛(げんこうぎゅう)」と命名してその育成に心血を注ぐ一方、台湾牛の研究も精力的に行い、このほど李元総統を筆頭著者とする研究論文が公益社団法人日本畜産学会の『日本畜産学会報」(第89巻第1号 2018年2月)に掲載された。
ちなみに、「源興牛」という名前は、台北州淡水郡三芝庄(現在の新北市三芝区)にある生家「源興居」に由来している。
源興居から「台湾民主主義の父」と称され、ノーベル平和賞候補にものぼった自らの越し方を振り返り、この台湾牛を台湾の人々が食べるようになり、和牛として日本はもとより世界各国へ輸出できるようになることを願って命名されたのかもしれない。1月15日で満95歳を迎えられた李元総統の台湾を豊かにしたいという夢は、まだまだ尽きないようだ。
—————————————————————————————–李登輝元総統、日本の専門誌に論文を発表 “台湾和牛”のルーツ探る【中央通信社:2018年3月10日】
http://japan.cna.com.tw/news/asoc/201803100003.aspx写真:日本畜産学会報に掲載された李登輝元総統の研究論文=李登輝基金会提供
(台北 10日 中央社)李登輝元総統を筆頭著者とする研究論文が、日本畜産学会の機関誌「日本畜産学会報」(第89巻第1号)に掲載された。李氏が会長を務める李登輝基金会が2016年に台北郊外の陽明山で購入した19頭の台湾牛について、黒毛和種や欧米牛との遺伝的関係を調べたもの。
台湾牛は日本統治時代(1895〜1945年)に日本から輸送された約100頭の和牛の子孫だとされる。戦後、陽明山で放牧されるようになったがその後徐々に数が減り、2016年9月の時点で19頭(雄牛8頭、雌牛11頭)のみとなっていた。農業経済学博士として台湾の畜産業に高い関心を寄せる李氏は現在、この台湾牛を品種改良した台湾和牛「源興牛」の育成に心血を注いでいる。
研究では台湾牛が黒毛和種、ホルスタインなど欧米種計9品種から独立した集団であることが分かったという。今後死体の調査などで黒毛和種の肉質に近いことが確認されれば、質の高い台湾牛を育てることで牛肉自給率の向上を目指したいとしている。
論文のタイトルは「SNPマーカーを用いた台湾牛種と黒毛和種および欧米牛の遺伝的関係」で、李登輝基金会の王燕軍秘書長や中村佐都志博士、日本大学の長嶺慶隆教授との共著。
(范正祥/編集:塚越西穂)