李元総統はこのスピーチで、李登輝基金会の今後1年間の重点活動として新たな「正名制憲」運動に取り組むと宣言。また、中国と合意したとされる「92年コンセンサス」(「九二共識」)については、自らの総統時代のことゆえ、これまで何度もその存在を否定してきているが、今回も改めて「存在しない」と否定された。新たな「正名制憲」とはなにか、如月氏のブログから紹介したい。
—————————————————————————————–台湾の李登輝元総統、「中国生まれの憲法」からの離脱を主張 「ひとつの中国の約束」は存在しない【如月隼人ブログ:2017年9月10日】https://ameblo.jp/kisaragisearchina/entry-12309416410.html
台湾の李登輝元総統は9日、李登輝基金会のパーティーに出席し、政党政治の新たな規範のための「正名制憲」運動を推進することなどを、今後1年間における基金会の重点活動とする考えを明らかにした。台湾側と中国大陸側が「1つの中国」で合意したとされる「九二共識」については改めて「存在しない」と述べた。
李元総統は、民主体制における立党政治の規範づくりのためとして、新たな「正名制憲」運動との推進を主張。「正名」とは台湾の制度や施設、組織における「中国由来」の文字を取り去り「台湾」に置き換えることを指す。代表例としてはパスポートにある「中華民国」の表記を「台湾」に変える主張などがある。
「制憲」は新憲法の制定を指す。中国国民党の中国大陸統治時代に起源を持ち、その後の修正などを経てきた「中華民国憲法」の再修正ではなく、新たに「台湾憲法」を作るという「脱中国」のより強い主張だ。
李元総統は、「正名制憲」について、「中国法統政権」が生存する機会を阻止し、台湾の「脱古改新」に資するために、基金会の今後1年間の重点活動にすると述べた。「中国法統政権」とは、「中華民国政権こそが、中国全土を統治するべき正統政権」との考えを指す。
李元総統は蔡英文政権の政策について「台湾にとってよい」と述べる一方で「段階的な任務と国家の目標」がいまだに不明確であるために、支持率が低いと指摘。「2020年の総統選で、(馬英九政権が誕生した)2008年と同様に、台湾で『中国法統』が復活してしまうのか? これは、われわれが深刻に取り組まねばならない問題だ」と述べた。
李元総統は「台湾では民主制度が長年にわたり実施されているが、残念なことに、現在に至っても封建的・権威主義の心情を持ち、台湾に圧力をかける中国大陸の宣伝に協力する人がいる」と主張。
馬英九総統が2008年に就任した際には「中国を信じてはいけない。『九二共識』は存在しない。中国大陸の統一戦のためのうそだ。相手には民主も法制もない。詐欺の手段を用いる政権だ」と忠告したと説明。
さらに「実に残念なことに、国民党は現在になっても問題をはっきり認識しておらず、実際には存在しない『九二共識』を使い続けている。台湾庶民の考えとは、ますます離れている」と述べた。
李元総統は、台湾における自らの役割について「今でも自信がある。使命感を持っている」と論じた上で、新しい世代の台頭について「国家利益の追求を思想の中心として、現在の政治の乱れを正し、勇敢に新時代を担い、台湾政党政治の新たな競争の規範を創造することを応援したい」と述べた。
◆解説◆
九二共識とは、中華人民共和国と中華民国(台湾)が1992年に香港で行った協議で達成したとされる「1つの中国」という共通認識。ただし文書は残されておらず、台湾側(国民党)関係者が「存在」に言及したのも、2000年に民進党が総統選に勝利して、陳水扁政権の発足が決まった直後だった。
当時の陳水扁総統、さらに李登輝元総統、黄昆輝行政大陸委員会元主任、辜振甫海峡交流基金会理事長ら1992年当時に台湾の要職にあった人の多くが、「九二共識は存在しない」と主張している。
なお、国民党は九二共識の内容は「一中各表(中国は1つだが、中国大陸側は中華人民共和国が中国の正統政府とする立場で、台湾側は中華民国が正統政府とする立場)」と説明しているが、中国政府は「一中各表」を認めておらず「1つの中国」のみについての合意と主張している。
(編集担当:如月隼人)