日米首脳の共同記者会見 菅首相の発言全文

【産経新聞:2021年4月17日】

 米国訪問中の菅義偉首相は17日、バイデン大統領とワシントンのホワイトハウスで会談した。

 首相は会談後の共同記者会見で、中国をめぐる問題が議題となったことを明かし、「東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、地域の他者に対する威圧に反対することでも一致した」と述べた。会見での首相の冒頭発言と、質疑応答の全文は以下の通り。

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【冒頭発言】

「このたび、ここワシントンD.C.への訪問を実現できたことを大変、嬉しく思います。暖かくお迎えいただいたバイデン大統領とハリス副大統領に心から感謝申し上げます。そして準備にご尽力をいただいたすべての政府関係者の皆さまに御礼を申し上げます」

「米国は日本の最上の友人であり、日米は自由、民主主義、人権などの普遍的価値を共有する同盟国であります。日米同盟はインド太平洋地域、そして世界の平和、安定と繁栄の礎として、その役割を果たしてきましたが、今日の地域情勢や厳しい安全保障環境を背景に、同盟の重要性はかつてなく高まっております。このような共通認識のもとで、本日の首脳会談では、お互いの政治信条、それぞれが国内で抱える課題、そして日米が共有するビジョンなどについて、幅広く、率直な意見交換を行うことができました」

「バイデン大統領とは、先月の日米2プラス2で一致した認識を改めて確認し、その上に立って、さらに地域のために取り組むことで一致いたしました。自由で開かれたインド太平洋についても話し合いをしました。この地域の平和と繁栄を確保していくために、日米がこのビジョンの具体化を主導し、ASEAN(東南アジア諸国連合)、豪州、インドをはじめとする他の国々、地域とも協力を進めていくことで一致いたしました」

「また、インド太平洋地域と世界全体の平和と繁栄に対して、中国が及ぼす影響について真剣に議論を行いました。東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、そして地域の他者に対する威圧に反対することでも一致しました。その上で、それぞれが中国と率直な対話を行う必要もあること、そしてその際には、普遍的価値を擁護しつつ、国際関係における安定を追求すべきである、このことでも一致いたしました」

「北朝鮮については、すべての大量破壊兵器、および、あらゆる射程の弾道ミサイルのCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄)へのコミットメント、そして北朝鮮に対して、国連安保理決議のもとでの義務に従うことを強く求めることで一致いたしました。拉致問題については、重大な人権問題であり、日米が連携して北朝鮮に対して即時解決を求めていくことを再確認しました。また北朝鮮への対応や、インド太平洋地域の平和と繁栄にとって、日米韓の3カ国協力がかつてなく重要になっているという認識で一致し、この協力を推進していくことを確認いたしました」

「いっそう厳しさを増す地域の安全保障環境を踏まえ、日米同盟の抑止力、対処力を強化していく必要があります。私から日本の防衛力強化への決意を述べ、バイデン大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用を含む米国による日本の防衛へのコミットメントを改めて示していただきました。さらに同盟強化の具体的な方途について、両国間で検討を加速することを確認しました。同時に沖縄をはじめ地元の負担軽減を進める観点から、普天間飛行場の固定化を避けるための唯一の解決策である辺野古移設を含め、在日米軍再編を着実に推進することで一致いたしました」

「現下の国際社会が直面する新型コロナウイルス、気候変動といった過去に例のない危機に対処していく上でも、日米両国は互いに欠かすことのできないパートナーであります。バイデン大統領とは、両国がこれらの課題の解決に向けた多国間の取り組みを主導していく大きな責任を持っていることを確認しました。その上で、多国間主義と法の支配に基づく国際秩序を尊重しつつ、国際社会のよりよい回復に向けて共同のリーダーシップを発揮することで一致いたしました」

「これらの会談結果を踏まえ、本日、日米首脳共同声明、新たな時代における日米グローバル・パートナーシップに一致いたしました。この声明は、今後の日米同盟の羅針盤となるものであり、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた日米両国の結束を力強く示すものであります」

「またバイデン大統領とは、両国が世界のよりよい回復をリードしていく観点から、日米コア・パートナーシップに合意し、日米共通の優先分野でもあるデジタルや科学技術の分野における競争力とイノベーションの推進、コロナ対策、グリーン成長、気候変動などの分野の協力を推進することでも一致いたしました。競争力とイノベーションについては、特にデジタル経済や新しい技術が社会の変革と大きな経済機会をもたらすとの認識のもとで、デジタル分野をはじめとするさまざまな分野の研究、開発の推進に日米が協力して取り組んでいくことで一致してます」

「コロナ対策については、短期的対応から将来の同様の事態に備える長期的取り組みに至る、重層的な協力の推進に取り組んでいきます。ワクチン供給全体や、国際保健分野における日米間の官民協力の強化についても、両政府間で引き続き協力していくことを確認しました。特に途上国を含めたワクチンの公平なアクセスの観点から、多国間や地域の協力を推進してまいります」

「気候変動については、来週に予定されます米国主催の気候サミットをはじめ、COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)および、その先に向けて、日米で世界の脱炭素をリードしていくことを確認しました。またパリ協定の実施、クリーンエネルギー技術、途上国の脱炭素移行の各分野での協力をいっそう強化していくために、バイデン大統領とは脱炭素化、およびクリーンエネルギーに関する日米気候パートナーシップを立ち上げることでも一致をしました。これらのイニシアチブのもとに、具体的で包括的な日米協力に弾みをつけていきたいと思います」

「バイデン大統領とは、全米各地でアジア系住民に対する差別や暴力事件が増加していることについても議論し、人種などによって差別を行うことは、いかなる社会にも許容されない、そのことでも一致いたしました。バイデン大統領の、差別や暴力を許容せず、断固として反対するとの発言を、大変心強く感じ、アメリカの民主主義への信頼を新たにいたしました」

「また私から、今年の夏、世界の団結の象徴として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を実現する決意であることをお伝えしました。バイデン大統領からは、この決意に対する支持を改めて表明をしていただきました。わが国としてはWHO(世界保健機関)や専門家の意見を取り入れ、感染対策を万全にし、科学的、客観的な観点から、安全、安心な大会を実現すべく、しっかりと準備を進めてまいります」

「自由、民主主義、人権、法の支配。日米両国が共有するこうした普遍的価値をしっかり擁護しながら、本日の有意義な会談の結果を実践に移し、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、ジョーとさらに連結、協力を深めていくことを楽しみにしています。今回のお招きに改めて心から感謝を申し上げます。ありがとうございました」

【質疑応答】

 ── 対中政策について伺いたい。日米両政府は台湾の平和と安定が重要だとの認識で一致してきたところだが、今回の会談でどのようなやりとりが交わされたのか。特に台湾海峡の有事を抑止するために日本ができること、有事が発生した場合に日本ができること、こうした点について、菅首相からバイデン大統領に、どのような説明を行ったのか。また、ウイグルの人権問題についても日米両政府は深刻な懸念を共有しているが、G7諸国で日本のみが対中制裁を行っていない。こうした点について、バイデン大統領の理解を得ることはできたか

「地域情勢について意見交換する中で、台湾やウイグル地区をめぐる状況について議論はいたしました。また、やりとりの詳細は外交上のやりとりのため差し控えますけれども、台湾海峡の平和と安定の重要性については日米間で一致しており、今回、改めてこのことを確認いたしました。また、新疆ウイグル地区の状況についても、わが国の立場や取り組みについてバイデン大統領に説明し、理解を得られたと、このように考えています」

 ── 東京五輪・パラリンピックについて、バイデン大統領からは米国選手団派遣について具体的な約束や前向きな意向は示されたか。また、新型コロナウイルスワクチンの供給スケジュールや2030年の温室効果ガスの削減目標など、具体的な数値目標や行動目標は話題にのぼったか

「冒頭申し上げました通り、私から、今年の夏、世界の団結の象徴として東京オリンピック・パラリンピック大会開催を実現する決意を述べて、バイデン大統領からは改めてご支持をいただきました。またわが国としては引き続き、今年の夏の東京大会開催を実現すべく、しっかり準備を進めていきます」

「新型コロナウイルスワクチンへの公平なアクセスのために、日米間で引き続いて協力していく。このことで一致をいたしております。また気候変動問題では、私とバイデン大統領の両方が重視する課題であります。本日の会談で、日米において気候変動分野の協力、連携を強化していく。そうしたことを確認し、日米気候パートナーシップを立ち上げることで一致できましたことは、極めて有意義なことである。このように考えてます」

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