本誌は、米国のバイデン新政権の対台湾政策と対中国政策を見極めようとしている。米国のこの政策が、日本、米国、オーストラリア、インドが進める「自由で開かれたインド太平洋」の平和と安定に及ぼす影響が決定的だからだ。
そこで、これまで国務長官に就任する前のアントニー・ブリンケン氏や国防長官に就任する前のロイド・オースティン氏の上院公聴会における発言(1月19日)、国務省による「中国の台湾への軍事圧力は地域の平和と安定を脅かす」という声明(1月23日)、大統領府(ホワイトハウス)のジェン・サキ大統領報道官の記者会見発言(1月25日)などを詳しく紹介してきた。
その後も、米国新政権の対台湾政策と対中国政策を推し測れる発言が相次いでいる。
中国国防省の呉謙報道官が1月28日の記者会見において「中国の軍用機が台湾の防空識別圏への進入を活発化させていることについて『外部勢力の干渉と台湾独立勢力の挑発に対する厳正な反応だ』と主張。その上で『火遊びをする者は必ず自ら焼け死ぬ。台湾独立は戦争を意味する』と圧力をかけた」(産経新聞)と報じられた。
ここに言う「外部勢力」とは米国であり、「台湾独立勢力」とは蔡英文政権を指しているようで、米台を「火遊びをする者」と挑発的な言葉を投げかけた上で「台湾独立は戦争を意味する」と、これまた刺激的な表現を用いた。中国としては、「台湾は中国の領土であり、核心的利益」であるという主張を受け入れない米国と台湾にこそ非があり、戦争を仕掛けているのは米国と台湾であり中国ではないという、いつもの“自分に非はない論”を繰り出してきた。中国は最終的には一戦も辞さないという構えも見せたつもりなのかもしれない。
この発言は、2005年3月、中国の全国人民代表大会(全人代)は「反国家分裂法」を制定、台湾が独立しようとしたら「武力行使も辞さない」と決定したことを思い出させる。また、台北市長時代の馬英九元総統が同じ2005年、国民党主席選挙中に日本との尖閣諸島の漁業権を巡って、台湾に非はないのだから「(日本と)一戦を辞さない」(不惜一戰)と述べたことも思い出させる。強い姿勢を示して選挙戦を有利に導くための発言だった。
中国国防省報道官の発言に対し、米国国防総省のジョン・カービー報道官は1月28日の記者会見で即応し「台湾をめぐる緊張が衝突のようなものにつながらなくてはならない理由はまったくない」(TBSニュース)と述べるとともに「北京の言論は米台関係の基礎となる『台湾関係法』で定められた義務を履行しようとする米国の意思に合致しないと言及した。その上で、『われわれには台湾の自衛を支援する義務があり、今後も継続していくだろう』と強調した』(中央通信社)と反論したと報じられている。
翌1月29日には、今度はジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官が「中国の攻撃的な姿勢に対し、我々は信念を守るため、立ち向かう」と述べたという。サリバン大統領補佐官はまた「中国・新疆ウイグル自治区の人権問題や中国政府の香港、台湾政策について『我々は代償を払わせる用意も出来ている』とも述べた。トランプ前政権と同様、制裁発動も辞さない構えを示したと言える」(読売新聞)と述べたと伝えられている。
興味深いのは、日米豪印4か国による協力枠組み、つまりクアッド(Quad)が「インド太平洋地域の政策を米国が策定する基礎となる」と述べたことだ。読売新聞は「トランプ前政権下で強化が進んだ4か国の連携を引き継ぎ、対中戦略の中心的な枠組みの一つに位置付ける考えを示したもの」と分析している。
バイデン新政権の国防総省のジョン・カービー報道官、バイデン大統領側近のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官はともに、台湾の自衛を支援する義務を定めた台湾関係法を前提として、米国の意思として、攻撃的な姿勢を示す中国には制裁発動も念頭に立ち向かうという立場を鮮明にした。
特に、クアッドが「インド太平洋地域の政策を米国が策定する基礎となる」と述べたジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官の発言は重要だ。米国の「自由で開かれたインド太平洋戦略」の平和と安定に資する地政学的要衝にある台湾に対し、引き続き支援すると表明したことになるからだ。
バイデン政権は、それぞれの立場で濃淡の差はあるものの、中国の台湾への軍事圧力は米国の国益と一致しないという大枠で、トランプ政権を引き継いだと見ていいようだ。あとはバイデン大統領自身の発言を待つこととしたい。
—————————————————————————————–日米豪印協力は「インド太平洋政策の礎」…米「中国の攻撃的な姿勢に立ち向かう」【読売新聞:2021年1月30日】
【ワシントン=横堀裕也】米国のサリバン国家安全保障担当大統領補佐官は29日、日米豪印4か国による協力 の枠組みが「インド太平洋地域の政策を米国が策定する基礎となる」と述べた。
トランプ前政権下で強化が進んだ4か国の連携を引き継ぎ、対中戦略の中心的な枠組みの一つに位置付ける考えを示したものだ。
米国平和研究所(USIP)のオンライン上のイベントで語った。サリバン氏は、同盟国との協力で米国の立場がより強くなるとし、「中国の攻撃的な姿勢に対し、我々は信念を守るため、立ち向かう」と述べた。4か国は近年、中国を念頭に安全保障面の連携を強めている。昨年10月には2回目の外相会談を開き、定例化を決めている。
サリバン氏はまた、中国・新疆ウイグル自治区の人権問題や中国政府の香港、台湾政策について「我々は代償を払わせる用意も出来ている」とも述べた。トランプ前政権と同様、制裁発動も辞さない構えを示したと言える。
サリバン氏は、米露が新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長で原則合意したことにも言及し、「我々は条約の対象外となる核兵器の扱いを含め、真剣で持続的な交渉に臨まなければならない」とした。今後の交渉を通じて、ロシアが増強する戦術核などの規制を図る考えを示したとみられる。
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