「着物の美しさや優しい気持ち、礼儀作法。踊りで表現する伝統文化の『日本舞踊』
に接して、自分が心の中から変わったのが分かりました。(無事に踊り終えて)最高の
気分です」
昨年10月に日本舞踊の名取となり、「市山妙扇(みょうせん)」と名乗ることを許さ
れた台湾人の張懿文(ちょう いぶん)さん(47)が15日、お披露目として東京都千代
田区の国立劇場の大劇場で長唄「藤娘」を艶(あで)やかに踊った。
張さんは日本舞踊協会の会員にも登録された。同協会によると外国人で会員に登録さ
れた名取は珍しく、台湾人では初めてという。舞台の後、国立劇場の楽屋には友人ら
100人以上がお祝いに詰めかけ、華やかな藤娘姿の「妙扇さん」をお目当てに、記念撮
影の列が続いた。
台湾の大使館に相当する台北駐日経済文化代表処(東京)に勤務する夫の朱文清広報
部長の4回目の赴任に伴って、今年で通算17年になる日本での在住歴をもつ。5年ほど前、
日本舞踊を鑑賞して美しさに魅せられたのがきっかけ。さらに、「台湾で『日本舞踊』
が静かなブーム」(平成17年)との台北発の本紙記事を読んで「名取」を意識し、知人
を頼って「市山流」でさらに稽古(けいこ)に励んだ。
張さんが師事する市山流家元、市山松扇(しょうせん)さんは「妙扇さんは藤娘の心
まで理解して感情表現した。忍耐強いお稽古で、周囲の日本人も大いに刺激を受けた」
と話す。
藤の精の恋心を演じる日本舞踊の代表的な演目を無事に踊り終えた張さん。「今日の
踊りはまだまだでした。でも、お稽古に終わりはありません。将来は自分も振り付けを
考えながら、心から美しくなる日本舞踊を台湾の人たちにも伝えたい」と目を輝かせて
いた。(河崎真澄)
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1960年台湾南投県生まれ。台北の輔仁大日本語学科を経て85年に東京のハリウッド美
容専門学校卒。日本の美容師国家資格を取得。通算17年の日本滞在で着物の着付けや茶
道、華道にも親しむ。82年に結婚した朱文清氏との間に1男1女。47歳。