北朝鮮の核実験・核武装という事態を受けて、今朝の読売新聞の社説が集団的自衛権を
行使できない現状を克服するため、速やかに憲法解釈の変更をせよと迫った。
安倍総理は、9月29日に発表した所信表明では「主張する外交への転換」ということで「
日米同盟がより効果的に機能し、平和が維持されるようにするため、いかなる場合が憲法
で禁止されている集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即し、よく研究
してまいります」と述べたが、読売社説は「『研究』などと、悠長に構えている場合では
あるまい」と手厳しい。しかし、至言である。
周辺事態法は台湾有事を想定して成立したと言われるが、周辺事態法や船舶検査法では
対処できない現実が迫っている。読売社説の指摘する通りだろう。
なにもこれは北朝鮮への対応に限らない。尖閣諸島を自国領と国内法である領海法で定
めた中国との間でも想定される問題だからだ。
読売社説では「例えば、船舶検査の際に、相手の船舶に米艦船が攻撃された場合、仮に
海上自衛隊の艦船がすぐ近くにいても、何もできない。海自艦船が米艦船を守るために相
手船舶を攻撃すれば、集団的自衛権の行使と見なされるからだ」と説明している。これは
国会でも取り上げられ、安倍総理自身もある対談で説明している象徴的な事例だ。
前台湾週報編集長で時代小説家として活躍する喜安幸夫氏の近未来小説『日本中国開戦』
(学研、2006年5月刊)でも同様の場面が描かれている。
日中中間線を北上中の民間船「姫島丸」が「不穏な行動」を理由に中国艦から艦載砲の
攻撃を受けるが、近くを航行していたイージス艦「うんかい」やフリーゲト艦「ろっこう」
と「そね」の三隻は事態を正確にとらえながら何もできない。一度は出した発射命令を取
り消し、目の前で船が沈んでいくのを手を拱いて見ているしかない。救助活動しかできな
いもどかしさをリアルに描く。
どうして日本のイージス艦が中国艦を撃てなかったのか。船長や乗組員は日本人ではあ
るものの、便宜地籍船、つまりパナマ船籍だったからだ。
喜安氏は、現憲法下では、集団的自衛権が「憲法九条の解釈上から行使は許されない」
実態を小説のかたちを借りて描いたのだった。
日中中間線のガス田や油田、あるいは尖閣諸島をめぐって、中国とのこのような事態は
容易に想像しうる。また台湾有事の際にも起こりうることだ。米軍と共同演習するだけで
抑止力となって台湾海峡は安定するにもかかわらず、集団的自衛権の行使ができなくては
米軍との共同演習さえままならない。権利はあっても行使できないのが日本の集団的自衛
権解釈の現状なのである。
台湾は日本の「生命線」である。台湾海峡の安定が日本の国益であり、台湾の国益でも
ある。すでに台湾は「軍事交流や相互協力を強化し『準軍事同盟関係』を形成したい」(
10月9日、陳水扁総統)と明言している。日本はそれに応えるためにも、集団的自衛権を行
使できるよう速やかに憲法解釈を変更すべきなのである。
(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原正敬)
『北』制裁 日本の安全を損ねる憲法解釈
【10月15日付「読売新聞」社説】
北朝鮮の核武装という事態に直面して、日本の安全を守る上で、憲法解釈が障害になっ
ているのではないか。
安倍首相が言うように、最も深刻な脅威にさらされているのは日本だ。国連安全保障理
事会が、船舶検査も含む制裁決議をすれば、日本としても最善を尽くすのは当然だ。シー
ファー駐日米大使に言われるまでもなく「意味ある貢献」をしなければならない。
それには、やはり、「持っているが、行使できない」とされる集団的自衛権の解釈を変
えねばなるまい。武器使用の基準も全面的に見直す必要がある。
船舶検査が実施されれば、その主体は米軍だろう。政府は、周辺事態法の発動による給
油など米軍への後方支援や、船舶検査法に基づく周辺事態に際しての船舶検査などを検討
している、という。
だが、例えば、船舶検査の際に、相手の船舶に米艦船が攻撃された場合、仮に海上自衛
隊の艦船がすぐ近くにいても、何もできない。海自艦船が米艦船を守るために相手船舶を
攻撃すれば、集団的自衛権の行使と見なされるからだ。
こんなことが起きれば、日米同盟の信頼性は一気に崩れてしまう。日本の平和と安全を
守れるはずもない。
しかも、周辺事態法は、米国への後方支援を定めた法律で、現状では、米国以外の艦船
には、海自による給油などの支援はできない。無論、相手船舶の攻撃があっても、助ける
ことはできない。
安倍首相は、国会などで「いかなる場合が憲法で禁止されている集団的自衛権の行使に
当たるのか、個別具体的な事例に即して研究する」と繰り返し言明している。同盟の信頼
性を高めるために、当然、必要なことだ。
だが、今、国際社会が北朝鮮への制裁に踏み切ろうとし、日米が共同で対処しなければ
ならない局面が現実になろうとしている時だ。「研究」などと、悠長に構えている場合で
はあるまい。
船舶検査法に基づいて船舶検査を実施しても、実効性には疑問がある。停船させるため
の警告射撃も、拿捕(だほ)もできず、強制力がないからだ。相手船舶が停船せず、乗船
しての検査や航路の変更に応じなければ、単に追尾するしかない。
これでは、日本が船舶検査に参加しても、他国の足手まといになるだけだ。
警告射撃もできないのは、憲法が禁じる武力による威嚇や武力行使に当たるとの理由か
らだ。国際常識から外れた考え方だ。武器使用の問題として、適切な使用基準を考えるべ
きではないか。
現実にそぐわない憲法解釈に固執すべきではない。