ていた2005年10月12日、現在、本会理事でもある平成国際大学の浅野和生(あさの・かず
お)教授は「日本と台湾との相互交流の基本に関する法律」(略称:日台関係基本法)の
案文を発表した。
昨日の本誌で記したように、米国は1979年に国内法として「台湾関係法」を定めたこと
により、台湾や中国と外交を行うための法的根拠を保持した。以来、米国はこの台湾関係
法に基づき、共和党も民主党も政策綱領を策定し、大統領もこの国内法に従って発言して
いる。
ところが、日本は米国と異なり、台湾と国交を断絶して以来、「非政府間の実務関係」
という枠組みの中、双方の善意を前提とした「取決め」を台湾と結び、国家間に匹敵する
交流を維持してきていものの、米国の台湾関係法のような法的裏付けは一切ない。
日台関係は第三国の干渉を招きやすい非常に不安定な中にある。米中首脳会談で、習近
平・国家主席がオバマ大統領に台湾への武器売却停止などを求めた際、オバマ大統領は毅
然として「米国は台湾関係法に基づいて対応する」と拒否した。
日本は台湾に武器を売却していないので中国から同様の要求をされることはないが、例
えばかつて台湾で天皇誕生日レセプションを始めたとき、中国から恫喝に近いクレームを
受けた。そのようなとき、米国のように敢然としてクレームを拒否できる根拠法がない。
また、公益財団という民間団体は日本にいくらでもあるが、公益財団の交流協会がなぜ
ビザを発給できるのか、日台間の「取決め」だけがその根拠なので、普遍的な説明は難しい。
それゆえ、浅野教授が「日台関係基本法」案を発表したとき、許世楷代表は「浅野案は
台日交流の法的根拠の確立にプラスとなる」と賛意を示したのだ。
許世楷大使はその後、盧千恵夫人との共著『台湾という新しい国』(まどか出版、2010
年3月)を出版、その中に「日本でも台湾関係法の成立を」という項目を立て、その必要性
に論及している。下記にご紹介したい。
明日、許世楷大使を講師として開催する「台湾セミナー」で、本書を販売する。
日本でも台湾関係法の成立を
元台北駐日経済文化代表処代表 許 世楷
中国があれだけ日本に対してしつこい態度をとっていますから、日本は「台湾と国交を
回復します」とは簡単には言えないでしょう。そんなことを言ったら、中国は暴れだしか
ねません。ですから、その一歩手前の「台湾関係法」というかたちで、もう少し台湾と日
本の関係をきちんと規定するということも中間の一歩としては考えられるでしょうし、い
ままで何もないのがむしろ不思議なくらいです。
現在、日本では交流協会というところが台湾との交流窓口になっていますが、アメリカ
も米国在台湾協会(AIT=American Institute Taiwan)を作り、台湾に人間を派遣して
います。そして、台湾も日本と同じように台北経済文化代表処をアメリカに置いていま
す。しかし、アメリカの場合は、私たちをどのように処遇するかが台湾関係法という法律
できちんと規定されているのに対し、日本の場合は文字での規定がまったくありません。
台湾と日本では、お互いの話し合いで決めています。これで困るのは、たとえば、もし
中国がアメリカのように強大な国になって日本が縮こまってしまったら、「この代表処を
閉めて日本から出て行け」ということにもなりかねないことです。日本には法律がないた
め、中国からそう言われても反論しにくいでしょう。
中国はアメリカに対して、「台湾への武器供与をやめろ」と言い続けています。それに
アメリカ政府が「いいえ、私たちは台湾へ武器を売ります」と答えられるのは、国会で通
した台湾関係法に規定があるからです。これがなければ中国はすぐには引き下がらないで
しょう。台湾と日本のあいだにはそういう法律がありませんから、何もかもが流動的です。
2004年の中国原潜の領海侵犯のときは、その前に台湾のほうを回っていました。台湾と
日本は、同じように中国からの脅威にさらされています。台湾と日本には直接の法的関係
はありませんが、日本とアメリカのあいだには日米安全保障条約があり、台湾とアメリカ
のあいだには台湾関係法があります。台湾と日本の関係は間接的なのです。
日本は表向きは「台湾とは関係がない」という態度をとっていますが、実際はそうでは
ありません。中国は毎年軍備を拡張し、台湾と日本の共通の脅威となっています。台湾海
峡を通ってエネルギー物資が日本に輸入されていることを考えれば、今後はこの脅威につ
いてさらに真剣に考えねばならなくなるでしょう。もし日本で台湾関係法ができれば、両
国にもっと直接的な防衛関係もできるはずです。
【許世楷・盧千恵『台湾という新しい国』まどか出版、2010年】