【台北=田中靖人】台湾で20日に行われた馬英九新総統の就任式典をめぐり、日台関
係に思わぬ“つまずき”が生じている。当日のささいな発言や態度がきっかけだが、背
景には、馬総統の「親中、反日」イメージへの懸念をぬぐえない日本側と、日本の姿勢
にいらだつ台湾側との認識ギャップがある。「ボタンの掛け違い」が今後の関係悪化に
つながる可能性も否定できない。
「4年後の演説に『日本』と入れていただけるよう日本側も努力したい」
20日午後、台北市内の総統府で開かれた昼食会。日華議員懇談会の平沼赳夫会長が就
任演説で日本に言及しなかったことに遠回しに注文を付けた。
日本側には、馬総統が対中、対米接近を打ち出す一方、過去に日本に対して厳しい歴
史認識を示してきたことから、対日関係が軽視されるのではないか、との懸念が根強い。
平沼氏の発言はこうした不安を代表したものだったが、平沼氏の声を聞き損ねた台湾側
通訳が「4年後は日本語で上手にあいさつしてほしい」と誤訳。日本側の苦言は宙に消
えた。
逆に馬総統は21日の記者会見で「演説ですべての国名を挙げることはできない。日本
の代表団とは昼食をとり、日台関係の重要性を強調した」と“反論”。国民党幹部は「日
本側こそ馬氏の配慮に気付き、政権交代を機に日台新時代を築く勇気を出せないものか」
と不満を漏らした。
台湾側の言い分はこうだ。馬総統は当選後、「反日」イメージ払拭(ふっしょく)の
ため度々、「対日関係重視」に言及。日本の台湾統治に対する厳しい歴史認識を基調と
しながらも、「未来志向の新しい関係構築」に向けて微妙に姿勢を軟化させ、8日は日
本統治時代の日本人技師、八田與一の慰霊祭に足を運んだ。「知日派でありたい」とす
る馬総統は、昼食会では「台湾高速鉄道(台湾新幹線)は日本の技術だ」と持ち上げた。
これに対する日本側の対応は外交辞令の範囲にとどまり、昼食会直後には国会議員団
全員が帰国。石原慎太郎東京都知事らも視察に出掛け、同日夜、高雄市で開かれた祝賀
晩餐会に日本側要人の姿はなかった。
一方、同じく代表団を派遣した米国は20日、カード前大統領首席補佐官がブッシュ大
統領の親書を手渡した上、就任演説の内容や民主的な政権交代の実現を高く評価した。
さらに、歴代の米国在台湾協会所長(米国大使に相当)5人は高雄まで同行し、新幹線
内でも馬総統と会談。内容は台湾海峡の安全保障問題から米中台の関係にまで踏み込み、
陳水扁政権下で傷ついた関係修復への意欲を示した。
国民党幹部は「日米の対応差は歴然。今後の日台関係を占うボールは日本側にある。
東アジア新時代の当事国としての意識を持ってほしい」と訴えている。
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