【世界日報「View point」:2021年1月12日】https://vpoint.jp/opnion/viewpoint/188700.html
去る12月26日、英国の調査研究機関「経済・ビジネス研究センター(CEBR)」が世界193カ国の2035年までの経済予測を公表した。
◆28年にもGDP逆転か
19年の発表では、中国の国内総生産(GDP)は33年にアメリカを超えるということだったが、今回はそれが28年へと5年早まる予測となった。新型コロナウイルス禍の元凶でありながら早期に封じ込めた中国と、2000万人超という世界最多の感染拡大が継続しているアメリカの、この1年の経済パフォーマンスの違いが影響した。
ちなみにインドは感染者数1000万人超で世界第2位、死者数15万人で世界第3位ながら、21年の経済成長率は9・0%、22年は7・0%の見込みで、かなりの高成長が予測されている。これによりインドのGDPは25年にイギリス、27年にドイツ、30年には日本をも抜き去って世界第3の経済大国になるという。
さて、昨年12月23日、外務省が一般公開した外交文書によると、1989年6月4日の天安門事件当日に、日本政府は「長期的、大局的観点から得策でない」と、欧米諸国と共同の対中制裁に反対する方針の文書を作成していた。また宇野宗佑首相は、7月14日からパリで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、政治宣言に「中国の孤立化を避け」との文言を盛り込ませることに腐心した。さらに海部俊樹首相が90年7月には円借款再開を表明、91年に中国を訪問。92年には天皇・皇后両陛下が訪中して、日本は、日中友好を演出し、他の主要国に先駆けて対中経済制裁を緩和、中国の経済成長を手助けした。
アメリカもオバマ政権まで、中国の経済成長を後押しし、経済が一定水準に達すれば、中国で自由化・民主化が進むという幻想を抱いていたが、天安門事件当時の外務省は、経済協力で「長期的には、中国をより自由で開放的な国家に変えていく」つもりだった。この目論見(もくろみ)が全くの見当違いだったことは、今では米国二大政党の認識の通りである。
中国を「変えていく」とはずいぶん上から目線だが、89年の日本のGDPは3兆550億ドル、中国は3478億ドルで日本が中国の8・78倍だった。しかし、2019年には日本のGDPが5兆2200億ドルで中国は15兆1200億ドル、中国が日本の2・9倍へと様変わりした。30年間で日本経済は1・71倍だが、中国は43・5倍。この間の日本は、「中国を変える」ために何もせず、ただ改革開放に舵(かじ)を切った中国の後押しに終始した。
100年余にわたって世界をリードしてきたアメリカが、GDPで中国に抜かれれば、世界に、とりわけ日本に巨大な衝撃を与えるだろう。そうなれば、イデオロギー国家としての中国を直視できずに日中友好を高唱している政財界人の中には、中国の走狗(そうく)となる者が簇出(そうしゅつ)するかもしれない。こうして世界の自由と民主、人権と法の支配が脆弱(ぜいじゃく)化し、全体主義、独裁が幅を利かせることになる。
しかし、ここ数年の香港やウイグル族の現実を見て、中国共産党一党独裁の中国が世界に君臨することを願う日本人は、皆無に近いだろう。それならアメリカの首位維持の期間を延長させて、中国が主導する世界という悪夢を遠ざけなければならない。
そのためにはCEBRの予測する、22年から24年が1・9%、それ以後は1・6%というアメリカの経済成長率を押し上げなければならない。アメリカは日本がイコールパートナーとなることを求めているが、日本は中国への投資、中国との経済交流を、可能な限りアメリカへと移し替えることで、アメリカを支援すべきなのである。インド太平洋地域の平和と繁栄の礎は、日本が支えなければならない。
◆インドが人口世界一へ
中国の人口は今日14億4000万人ほどだが、ほどなく人口減少期に入り、2100年には10億人を切る。この流れで、2027年にはインドの人口が中国を抜くと予測され、人口世界一の座が入れ替わる。こうして世界一の人口と、世界第3位の経済をもつインドの出現で、世界の景色が変わり始める。インド太平洋の平和と繁栄で、GDPの米中逆転の時期を28年から33年へと逆転させ、さらにそれ以後に押し下げれば、我々は中国が君臨する世界を永遠に遠ざけられるのかもしれない。
その成否は、この1年の日本の政財界の舵取りに懸かっている。(あさの・かずお)
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