台湾併合で「白日夢」と化す習主席の夢  浅野 和生(平成国際大学教授)

【世界日報「View point」:2022年1月11日】https://vpoint.jp/opnion/viewpoint/216151.html

 本年は、日中関係においては「日中国交正常化50年」、中台関係においては、国共内戦状態から対話開始への前提となった「92年コンセンサス」から30年という節目の年である。また、中国にとっては北京オリンピックの開催と、共産党大会における習近平(総書記)の任期延長という記念すべき年である。

 さて、2021年は経済、政治、軍事で台頭した中国と、その中国による併合への圧力にさらされる台湾の存在が、国際的にクローズアップされる一年だった。しかし遡(さかのぼ)って50年前の中国は毛沢東の下で、人民公社を基盤に社会主義体制を堅持する「貧困の平等」の段階にあった。世界の工場には程遠く、自動車より自転車が街にあふれていた。軍事力はアメリカの足元に及ばないレベルだったが、中国共産党は、台湾併合による「中国完全統一」を目指していた。

◆台湾化進めた李元総統

 台湾の中華民国はといえば、国共内戦の敗北で統治範囲が台湾、澎湖諸島、金門島および馬祖島に縮小して、以来23年を経ていたものの、国民党一党独裁体制の下、「中国の正統政権」として、「大陸反攻」「復興中華」を掲げていた。すなわち蒋介石政権は、台湾を拠点に中国大陸の併合を目指し、そのためには武力行使を辞さない構えであった。かくのごとく日中国交正常化、そして日台断交当時の台湾・国民党は、今日の習近平・中国共産党とその点で同様であった。

 時は遷(うつ)り、1988年に台湾人初の総統となった李登輝は、憲法改正を繰り返しながら台湾に民主主義を確立するとともに、中華民国が「中国」であることをやめて台湾化を進めた。その後、政権交代を繰り返した台湾には、しっかりと民主主義が根付き、蒋介石時代に涵養(かんよう)された「中国人意識」はフェードアウトして「台湾アイデンティティー」が広く深く浸透した。こうして自由と民主、そして法の支配を尊重するようになった台湾は、2021年には価値観を共有するパートナーとして、国際社会から認められるようになった。それゆえ、日米首脳会談、先進7カ国(G7)首脳会議では「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」という共同声明が発出されたのである。同様の趣旨は、欧州連合(EU)各国からも表明されている。

 他方、21年に中国共産党結党100年を祝った中国は、習近平の下「中華民族の偉大な復興」を達成しようとしている。習近平によれば、もともと世界に冠たる大国であった中国の屈辱の歴史は、1842年のアヘン戦争に敗北して英国に香港を割譲したところから始まった。あれから180年、習近平指導下の中国は、国内総生産(GDP)世界第2位の経済力と、急速に拡大を遂げつつある軍事力を背景として、各種国際機関のリーダーの座を獲得するとともに、「一帯一路」政策の遂行で、覇権国としての地位を再び手中に収めようとしている。

 残された課題は「祖国の完全統一」だけである。昨年には、香港の完全支配を実現して、アヘン戦争の雪辱を果たした。今や習近平にとって、「中華民族の偉大な復興の夢」完遂のために残された最後の1ピースが台湾併合となった。そしてまた、その実現こそが憲法改正までして任期延長を果たす習近平の、政権延命の正統性の根拠となる。

◆価値観同じ友邦が支援

 しかし、台湾は香港ではないしクリミア半島でもない。台湾には実質的主権を保持してきた72年の歴史があり、経済的な自立と独自の文化、通貨、そして自衛のための国軍と、愛国心を持った2300万人の国民がいる。さらに、中国の野望に気付いた自由、民主、法の支配という価値観を共有するパートナーの国々が、台湾と手を携えることになるだろう。それゆえ台湾を蹂躙(じゅうりん)しようとする中国共産党の試みは、必ずや台湾人からの頑強な抵抗と、パートナー国家からの激しい反撃、国際社会からの非難に直面する。そうなれば、営々として築き上げてきた中国の今日の経済力と国際的威信は回復し難い深傷(ふかで)を負うことになるだろう。

 こうして、「中華民族の偉大な復興の夢」、すなわち習近平の夢は、台湾併合を図ることで「白日夢」に終わることになる。今年は、中国の夢の終わりの始まりの年となるかもしれない。(敬称略)<<(あさの・かずお)>>

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


投稿日

カテゴリー:

投稿者: