慎重発言に努める米当局者が台湾重視を唱えた  田久保 忠衛(杏林大学名誉教授)

またまた産経新聞「正論」の紹介で恐縮だが、9月26日に安倍晋三氏が自民党総裁に選出
されたことを受け、杏林大学名誉教授で本会副会長の田久保忠衛(たくぼ・ただえ)氏が
昨日の「正論」欄で、安倍新総裁に祝意を表し「防衛費を大幅に増やし、新しい憲法制定
の議論を巻き起こす」ことを期待すると述べた。

 大事な提言である。ただ台湾関係者にとってさらに注目すべきは、田久保氏が「私が特
に重視する」点として、アメリカのキャンベル米国務次官補が9月20日の上院外交委員会で
「台湾との非公式関係強化措置を取りつつある」と明言したことを紹介していることだ。

 ここで思い出すのが、アメリカでは民主党も共和党も、その政策綱領に台湾のことを
堂々と書いていることだ。

 共和党は8月28日に採択した綱領で「仮に中国大陸が平和的対話と台湾の人々の意志尊重
の原則を破って一方的に現状の変更を企てるならば、アメリカは台湾側の防衛に協力す
る」とし、民主党も9月4日に採択した政策綱領で「台湾関係法を順守し、台湾の人々の期
待と最大利益にかなう方式で両岸問題が解決されることを支持する」としている。しか
し、日本の自民党や民主党の政策綱領では台湾について一切触れていない。

 この日米の差はどこから来るのか。それはアメリカが「台湾関係法」を定め、日本が定
めていないことに真の原因がある。キャンベル米国務次官補の発言も、共和・民主両党の
政策綱領も、台湾関係法を基に述べているとみなければならない。

 日本の政治家でもっともよく日台関係を熟知している安倍晋三新総裁には、日本版「台
湾関係法」の制定に向けても力をそそいでいただきたい。


安倍氏は「戦後脱却」の使命担え  田久保 忠衛(杏林大学名誉教授)
【産経新聞:2012年9月27日「正論」】

 日本の最高指導者の地位に最も近いところに身を置いた安倍晋三自民党新総裁に、まず
祝意を表したい。かねて、「戦後レジーム」からの脱却を唱えていた同氏に、時代が「ア
ンコール」を要求したといえる。が、鬱陶(うっとう)しい梅雨が続いた後の晴れ間を見
る気持ちには私はまだどうしてもなれない。このところ続いた与野党党首選挙の候補者に
は、今の日本が歴史的、地政学的にいかなる国難に直面しているかという認識、それにど
う立ち向かったらいいのかという迫力に欠けるところがある。

◆ユーラシア発の危機は深刻

 マスコミ側の意識にも、相当、問題があり、尖閣諸島をめぐる討論会や記者会見で、こ
の問題を、税制改正、エネルギー政策、社会保障制度の見直しなどと同列に扱って質問す
る。領土問題で、「相手の立場を考慮し、あくまで話し合いで」とか、「日中双方のナシ
ョナリズムは抑えなければいけない」などと答えていた民主党代表候補には、国家の浮沈
にかかわる深刻な危機がユーラシア大陸から押し寄せているとの感覚は微塵(みじん)も
ない。日本外交は悪魔たちの哄笑(こうしょう)の前で立ちすくんでいるのだ。

 両党党首候補から、「毅然(きぜん)として」「不退転の決意で」「大局的、冷静な判
断で」などの表現も一斉に飛び出した。が、中国の嫌がらせは続いている。それに、韓国
も親日的だった台湾までもが悪乗りしている。口先だけの大言壮語は何もできない遁辞
(とんじ)である。

 外務省には、チャイナ・スクールと称される「親中派」が今も活躍しているのか分から
ないが、これら外交官にも気の毒な面はある。力の裏付けのない外交は、非常時には機能
しにくい。力とは、経済、政治、軍事、文化、技術、インテリジェンスを含めた情報など
総合的国力プラス政治家のリーダーシップだ。日本の自衛隊の士気は一流だが、地位や体
制は、他国に比べて異常に不利なように、戦後の日本は仕向けてしまった。

◆日本は「愛国有罪」の体たらく

 私は、中国と徒(いたずら)に対立を煽(あお)り立てる論調には与(くみ)さない
が、日本大使館や大使、国旗などへの侮辱、日系企業の破壊、略奪を目にして、日本の国
家全体を立て直さないと危ういと痛感した。中国という国は国際秩序に責任を持つ国なの
か。それに対応するには、彼我の相違を見極める必要がある。

 先方は一党独裁体制下、ナショナリズムを教育し、必要な時にそれを意のままに煽り立
てる。中国には存在しない言葉「地球国家」を口にする「市民運動」の指導者が責任ある
座を占める日本には、そんな芸当などできもしない。中国では、法治は通用せず、反日で
あれば、何をしても「愛国無罪」で大目に見られる。片や、国家不在の日本では愛国者は
白い目で見られてきた。「愛国有罪」だ。

 戦前の日本が標語にした「富国強兵」は今、中国が仮借なく進めている国策である。日
本は対照的に「軽武装・経済大国」を目指してきた。自衛隊発足後に「富国他兵」だと茶
化(ちゃか)す向きもあったが、その通りで、日米同盟がなかったら、どうするつもり
か。国内で大衆迎合にかまけているときか。

 国際環境の変化は日本を変えてきた。隋・唐の対外圧力が大化改新を生み、元寇(蒙古
襲来)は鎌倉幕府を衰退させ、建武中興を促した。ペリーの来航で、日本は覚醒して明治
維新を成し遂げた。

 朝鮮半島の内紛を契機に日清戦争は起こり、次いでロシアの半島への影響力を拒否する
ために日露戦争は発生した。日露戦争後の処理は中国との対立激化の要因となり、旧満州
の市場争いと人種問題が遠因で日本は米国を次第に敵に回していく。そして敗戦だ。現憲
法下の日本はその結果であり、長い歴史の産物である。ロシア、朝鮮半島、中国から加え
られてきた圧力は熾烈(しれつ)の度を増している。

◆防衛費増大と新憲法論議を

 国際情勢の流れは中国に不利に展開していると思う。パネッタ米国防長官は9月19日、北
京での記者会見で、米国は中国を狙った「封じ込め」あるいは「包囲」を策しているのか
との質問に対し、そうではなく、太平洋への軍事力の「再均衡だ」と答えた。冷戦と異な
り、経済の相互依存性を強めている今は、封じ込めなどはできないが、米軍事力は太平洋
に集中させつつあるとの意味だろう。

 私が特に重視するのは、それを補うように、キャンベル米国務次官補が9月20日の上院外
交委員会での冒頭声明で、日本、韓国、豪州、タイ、フィリピン5カ国との同盟関係強化と
シンガポール、インド、インドネシア、ニュージーランド、マレーシア、ベトナムの6カ
国との友好関係増大に加えて、「台湾との非公式関係強化措置を取りつつある」と明言し
たことだ。慎重発言に努める米当局者が台湾重視を唱えたのである。

 日本は何をすべきか。安倍新総裁に期待するのは、国際環境を無視して10年間、減らし
続けた防衛費をとりあえず大幅に増やし、新しい憲法制定の議論を巻き起こす─の2点であ
る。関係諸国に与える政治的含意を考えて、戦後蝉脱(せんだつ)の歴史的使命を担って
ほしい。(たくぼ ただえ)


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