平野久美子さんの新著『トオサンの桜−散りゆく台湾の中の日本』(小学館)

「トオサン」たちの吐露する切ない思いを通して描く台湾の戦後史

 「トオサン」と聞いて、1994年(平成6年)に公開された呉念真監督の映画「多桑」を思
い出す。台湾では「父さん」は「多桑」と書き、「トオサン」と発音する。「トオサン」
は70代半ばを過ぎた日本語世代を指し、「カアサン」「オジサン」「オバサン」などとと
もに日本語がそのまま台湾に残った言葉の一つだ。

 『台湾好吃大全』や『中国茶と茶館の旅』など多くのノンフィクション作品を発表して
きた平野久美子(ひらの くみこ)さんの新著『トオサンの桜』は、映画「多桑」と同じ
く台湾の日本語世代の戦後をたどったノンフィクション作品である。

「なぜ彼らは、戦前の日本や日本語にこだわり続けるのだろう?」
「今の日本人は、彼らにとってどういう存在なのか?」
「彼らの伝えたい歴史には、どんな真実が内包されているのだろう?」
「早晩いなくなってしまう彼らの声を、私たちは親身になって聞いたことがあるか?」

 映画「多桑」が封切られた年に台湾で取材したことから、そんな思いが平野さんの中で
渦巻き、2004年から台北に住んでまとめた台湾の日本語世代の物語である。

 平野さんが「台湾の花咲爺さん」と名付けた王海清さんがこの物語の芯を貫く。20余年
にわたりたった1人で桜を植え続けている方だ。その他にも、蔡焜燦さん、伊藤潔さん、
鄭春河さん、許文龍さん、柯徳三さん、許昭栄さんなど、日本でも知られた方々がいっぱ
い登場して、その切ない胸の裡を吐露する。その意味で、本書は台湾の戦後史をたどる貴
重な記録ともなっている。

 本書には日本李登輝友の会の名も出てくる。終章「未来に咲く花」に、新竹李登輝之友
会(張震天会長)が日本から寄贈した河津桜を育てている様子を伝える場面だ。日本から
寄贈することになった経緯も紹介されている。

 今年も本会は育桜会(園田天光光理事長)と協力して、1000本の河津桜の苗木を寄贈す
る。新竹では日本式の花見をする。2月8日から訪台するこの「桜植樹式とお花見ツアー」
には、実は平野久美子さんも同行する。新竹では、本書に登場する張震天会長や洪日盛さ
ん、楊根藤さんたちが手ぐすね引いて心待ちに待っている。

 それにしても、この本は泣かせる。台湾の「トオサン」たちの言うに言われない思いが
切々と伝わってきて、そのたびに涙があふれる。平野さんが85歳になるという自分の父親
と重ねながら書いているからかもしれない。台湾の「トオサン」が異国の人ではなく、日
本の「父さん」でもあると感じるのは、その眼差しのせいであろう。特に「トオサン」の
孫にあたる日本の若い世代にぜひ読んでもらいたい本である。

                  (メルマガ「日台共栄」編集長 柚原正敬)

■本書は本会のホームページにも紹介しています。
 ホームページ:http://www.ritouki.jp/

■10部以上お申し込みの方には「割引」があります。詳細やお申し込みは日本李登輝友の
 会事務局までご連絡ください。

 日本李登輝友の会
 E-mail: ritouki-japan@jeans.ocn.ne.jp
 TEL: 03-5211-8838 FAX: 03-5211-8810


■トオサンの桜−散りゆく台湾の中の日本
■平野久美子
■小学館(1月29日発売)
■1,575円(税込)

http://skygarden.shogakukan.co.jp/skygarden/owa/solrenew_detail?isbn=9784093797467



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