昨日、劉兆玄・次期行政院長は、新政権で対中関係を担う大陸委員会の主任委員(大
臣に相当)に台湾団結聯盟所属の前立法委員(国会議員に相当)である!)幸媛女史を起
用すると発表した。
この人事には驚いた。中国国民党政権の柱の一つが大陸委員会である。だが、馬英九
・次期総統は台湾の対中国窓口機関のトップと位置付けられる海峡交流基金会の理事長
に、中国国民党ナンバー2で副主席の江丙坤氏を指名している。すでに江丙坤氏は4月23
日には両岸海空運の直航および中国大陸観光客の台湾観光開放に関する構想を国民党の
中央常任委員会に報告し、翌24日からは中国を訪問して上海をはじめ昆山(江蘇省)、
厦門(福建省)、東莞(広東省)などを回って27日に帰台している。
ところが、対中国政策を主管する政府の大陸委員会の主任委員に、李登輝前総統が指
導する台湾団結聯盟所属の!)幸媛女史を指名したのである。いわば李前総統の側近を対
中政策のトップに起用したことになる。新政権はその意味で、国民党と台聯との連立政
権的な様相を呈してきた。
この!)幸媛女史の起用はサプライズ人事ではあるが、台湾の主権を維持しようとする
姿勢を示すとともに、経済面での過度の中国傾斜に歯止めをかけ、中国の統一攻勢にク
サビを打ち込む人事のようだ。
今回、馬英九・時期総統は!)幸媛女史の起用について「事前に李氏から支持を取り付
けた」という。
その李登輝前総統は4月23日、台湾団結聯盟の党本部移転茶会の席で対中政策につい
て「両岸の貿易経済は国際ルールに則って往来すればよい。但し、政治的な立場として
は、必ず台湾の国家主権を堅持しなければならず、これを譲ってはならない。また、両
岸交流時において、防疫、金融安定、治安等の問題はすべて政府が処理、解決しなけれ
ばならない」と述べている。
もし、この李登輝前総統の対中姿勢を馬英九氏が取り入れたとすれば、江丙坤・次期
海峡交流基金会理事長の動きを牽制した人事とも言えよう。台湾は静かに、だが激しく
動いている。
以下に、!)幸媛女史起用を伝える「産経新聞」の報道と、李登輝前総統の発言を伝え
る「台湾週報」を参考に供したい。
(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)
対中政策トップに強硬派起用 融和路線・馬氏 政治は別モノ
【4月29日 産経新聞】
5月20日に発足する台湾の馬英九次期政権で、行政院長(首相)に内定している劉兆
玄氏は28日、対中国政策を主管する大陸委員会の主任委員(閣僚)に、台湾派女性で前
立法委員(国会議員)の!)幸媛氏を起用することを発表した。!)氏は李登輝前総統の直
系で対中強硬論者ともいわれる。中国国民党の馬新政権は経済面で対中融和を掲げるが、
政策面では政治を経済と切り分け、「主権」の主張を含む「中華民国」として独自の立
場を貫く姿勢をにじませた。
馬氏は!)氏の起用についてこの日、「彼女は台湾の法的独立を支持していない」と述
べて国民党の政策と路線矛盾はないと強調、この人事案では事前に李氏から支持を取り
付けたことを明らかにした。
!)氏は台湾紙・中国時報の記者出身で、李氏が後ろ盾となってきた台湾団結連盟に所
属。陳水扁現政権下では安保政策を決定する国家安全会議の重要ポストに就き、民主進
歩党の次期主席候補の蔡英文氏ら独立派とも良好な関係を保つ。
総統選で対中融和による経済振興策を訴えた国民党は、当選直後から蕭万長次期副総
統が訪中して胡錦濤国家主席との会談を実現。連戦名誉主席も私的立場で中国を訪れて
おり、胡主席との会見を予定するほか、6月には呉伯雄主席が北京入りし、中国共産党
総書記を兼ねる胡氏との国共トップ会談に臨む方向だ。
ただ、活発化する党要人による対中交流は、中台直行便の拡大など経済協力の強化が
中心とみられ、中国が主張する「一つの中国」の扱いなど、微妙な政治議題は棚上げと
する印象を内外に与えてきた。
しかし、同党幹部は「!)氏を起用する『全方位内閣』は台湾の地位と利益を守るため
の布陣だ」と述べ、経済振興のための過度の中国傾斜は「台湾の主権」をゆがめるとの
一部世論の懸念を払拭(ふっしょく)。今後は対中交流実務を行う海峡交流基金会の理
事長に指名された江丙坤・同党副主席が経済分野で調整役を担い、!)氏は馬氏の指揮下
で政策の手綱を締める両輪体制を構築する狙いという。
一方、党内からは、「李登輝路線の復活」との反発も出ている。!)氏が李氏に近いこ
とに加え、新政権が李登輝・国民党政権時代の幹部を続々と重用しているためだ。国民
党から除名処分を受けた李氏は党と一定の距離を保ってきたが、産経新聞との会見で馬
政権に協力する意思があることを表明しており、ある党幹部は「李氏は馬氏を寝技に持
ち込み、影響力を増す可能性がある」と話している。