中学校の地図帳問題で、地図帳を発行している帝国書院(略称:
帝国)と東京書籍(略称:東書)の2社に対し、7月4日付で質問状
を出しています。これに対して、東京書籍からは7月19日付、編集
部長名で返答をいただきましたが、シェア90%以上を占める帝国書
院からは「必ず返答します」とのことでしたが、未だに届いていま
せん。
東書からの返答には問題点が多く、納得しがたい、というよりも
理解しがたい内容でした。端的に言えば、文部科学省が検定基準で
は『世界の国一覧表』に従うとされ、この冊子で「台湾は独立国家
として扱われていない」だから「中華人民共和国の領土となる」と
いうものです。
この言い分を理解できる方がいれば、どう理解できたのか教えて
ください。
私どもから再度出した質問状では、この『世界の国一覧表』にお
ける台湾の取り扱いと、東書地図帳が「1945 中国に返還」と記述
している件について、「ポツダム宣言(カイロ宣言)」と台北にお
ける「降伏文書」に基づいているとの返答でしたので、その誤りを
国際法と日中共同声明の観点から指摘しました。
両社の地図帳のように、もし本当に台湾が中華人民共和国の領土
だとしたら、この地図帳を使っている生徒から「台湾の人々は中華
人民共和国の旅券で日本に入国することになっているのですか」と
か「日本人が台湾に行く場合、中華人民共和国のビザを取得して行
かなければならないのですか」という質問があった場合、いったい
どのように答えるのでしょうか。
このことは再質問状の最後に記しています。この再質問状に東書
がどのような返答をされるのか心待ちにしています。また、帝国か
らの誠意ある返答を期待したいところです。
中華人民共和国は「台湾は中国の不可分の領土」と何度となく言
っています。しかし、これまで一度も台湾を統治したことがありま
せん。なぜ現状をきちんと反映した地図帳にできないのか、こんな
簡単なことができないのは、まさに不思議というしかありません。
これまで王様は裸だと指摘する声が挙がらなかったからかもしれま
せん。皆さまの声を、ぜひ両社にお届けください。
ここに、東書への再質問状(全文、縦書)と東書からの返答(全
文、横書)をご紹介します。
『日台共栄』編集長 柚原正敬
■帝国書院『中学校社会科地図』と東京書籍『新しい社会科地図』
の連絡先
!)帝国書院(守屋美佐雄社長)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町3-29
電 話 03−3262−0520 地図編集部(杉山編集部長)
FAX 03−3262−7770
メール manual@teikokushoin.co.jp
!)東京書籍(河内義勝社長)
〒114-8524 東京都北区堀船 2-17-1
電 話 03−5390−7372 編集部(福田編集部長)
FAX 03−5390−7220
メール!) http://www.tokyo-shoseki.co.jp/company/index.html
メール!) waltervogt@tokyo-shoseki.co.jp
『新しい社会科地図』の記述内容に関する再質問状
御社発行の中学校用『新しい社会科地図』の内容に関する私ども
の質問に対し、七月十九日付にてご返答をお送りいただきました。
しかし、歴史事実としてあやふやなところが少なくなく、見解の相
違とも言えない到底納得しがたい内容でしたので、以下にその問題
点を列挙いたします。
【問題点1】『世界の国一覧表』における台湾の取扱いについて
まず、御社からの「返答」には「台湾は独立国家として扱われて
おりません。対外関係,すなわち国名を含めた領土・領域の記載に
つきましては,こうした書を含めて日本国政府の見解に基づいて取
扱っております」とあり、それが『新しい社会科地図』で台湾を中
華人民共和国の領土とした理由の一斑だと記しています。
確かに、ここで触れられている「こうした書」すなわち外務省編
集協力になる『世界の国一覧表』において、台湾は独立国家として
扱われているのではなく、「その他の主な地域」の項に掲載されて
います。しかし、その「領有ないし保護などの関係にある国」の欄
には日中共同声明の一文が記されているだけで、どこにも中華人民
共和国が台湾を「領有」や「保護」をしていると記されていません。
それは、台湾の次に掲載されている「ホンコン(香港)特別行政
区」や「マカオ(澳門)特別行政区」における「領有ないし保護な
どの関係にある国」の記述と比べてみれば一目瞭然です。
そこには「『一国二制度』による自治が認められた中国のホンコ
ン特別行政区」「『一国二制度』による自治が認められた中国のマ
カオ特別行政区」とあり、香港やマカオが中国、即ち中華人民共和
国の領土であることを明記しています。もし御社が主張するように
、台湾が中華人民共和国の領土だとしたら、なぜ香港やマカオと同
じように記述しないのでしょうか。この記述と台湾のそれを対比し
てみれば、台湾が中国領でないことはあまりにも明瞭なことであり
、異論を差し挟む余地はありません。
ましてや、当時、日中共同声明に署名して帰国した大平正芳外相
は、自民党両院議員総会の場で、次のように明言していました。
「台湾の領土の帰属の問題で、中国側は中国の領土の不可分の一部
と主張し、日本側はそれに対して『理解し、尊重する』とし、承認
する立場をとらなかった。つまり従来の自民党政府の態度をそのま
ま書き込んだわけで、日中両国が永久に一致できない立場をここに
表した」
このように、日中共同声明において日本は台湾を自国領とする中
国の主張を承認しなかったことは明らかなことであり、今もその姿
勢にいささかの変化もありません。
しかしながら、御社からの「返答」は『世界の国一覧表』以外に
どのような「日本国政府の見解に基づいて取扱って」いるのかを明
記していないため、さっぱり要領を得ません。さらに、一地域が独
立国家として扱われていないことを理由として、なぜ他国の領土に
編入されてしまうのか、これまた理解し難いことであり、このよう
な措置にはまったく整合性がありません。
従って、台湾が『世界の国一覧表』において独立国家として扱わ
れていないことをもって、中華人民共和国の領土だとするのは、解
釈や見解などの違いではなく、明らかな誤りです。
【問題点2】「一九四五 中国へ返還」記述に関して
次に、質問状において、台湾について「一九四五 中国へ返還」
は重大な誤りと指摘したことに対し、御社の「返答」では次のよう
な「編集上の考え」を述べられています(返答の中の年月日は算用
数字表記)。
「なお,台湾と日本との第二次世界大戦終了後のかかわりにつきま
しては,以下の二点をふまえて記載いたしております。一つは昭和
二十年八月に受諾したポツダム宣言でございます。ここには『カイ
ロ宣言の条項は履行せらるべく,又日本国の主権は,本州,北海道
,九州及四国並に吾等の決定する諸小島に局限せらるべし』と記さ
れております。もう一点は,昭和二十年十月二十五日に台北におい
て当時の台湾総督らが署名しました降伏文書でございます。これ以
降,台湾は事実上日本領でなくなっております。」
昭和二十年の段階で台湾は「法的には日本領だった」という当方
の指摘に対し、「事実上日本領でなくなっております」と述べ、恐
らくこれをもって「中国への返還」が行われたとする見解のようで
す。
実は、「中国への返還」があったと強弁する中華人民共和国も、
常にこのカイロ宣言(あるいはポツダム宣言)と台北における降伏
文書への署名をその法的根拠として挙げています。御社の見解と中
華人民共和国とのそれとがほぼ一致するのは果たして単なる偶然な
のでしょうか。そこで、御社と中華人民共和国が一致する見解の誤
りについて明らかにいたします。
(一)「返答」にはなぜか触れられていませんが、周知のようにカ
イロ宣言(あるいはポツダム宣言)は「日本国が清国人より盗取
したる」台湾及び澎湖島の中華民国への「返還」を謳ったもので
、それが日本に対して拘束力を持つようになるのは、実際には昭
和二十年九月二日、米艦ミズリー号上で日本が「降伏文書」に署
名した時点からです。
しかし、日本が「返還」を誓ったからといって、その即時実施
が求められたわけではなく、それが実施されないまま、日本はサ
ンフランシスコ講和条約を締結し、台湾を中国に「返還」するこ
となく、それに関する主権を放棄したというのが歴史の経緯です
。この新たな取り極めに抵触する「降伏文書」における規定が、
講和条約をもって無効になるのは国際法の常識です。
(二)次に、台北での「降伏文書」ですが、「返還」が実施されな
かった事実を覆い隠すため、中華人民共和国が常に法的根拠とし
て持ち出してくるのがこの「降伏文書」です。しかし、これは「
返還」の法的根拠などにはなり得ません。
なぜなら、この文書は九月二日、日本が「降伏文書」に署名し
た直後に出された連合国軍最高司令官マッカーサーによる「中国
(満州を除く)台湾及び北緯十六度以北の仏領インドシナにある
日本国の先任指揮官ならびに一切の陸上、海上、航空および補助
部隊は蒋介石総統に降伏すべし」との一般命令第一号の!)|A項
に基づき、中華民国が任命した陳儀・台湾省行政長官兼警備総司
令が安藤利吉・台湾総督兼第十方面軍司令官に交付したものにす
ぎないからです。
だが陳儀はこのとき、日本の軍隊の降伏を受けるだけにとどま
らず、「台湾、澎湖列島の領土人民に対する統治権、軍政施設な
らびに資産を接収する」という越権的な行政長官第一号命令を発
し、安藤総督はその命令受領証において「本命令および以後の一
切の命令、規定、指示に対し、本官および本官が属し、あるいは
代表する各機関、部隊の全官兵は、それを完全に執行する責任を
負う」として署名しています。そして陳儀はこの式典直後、ラジ
オ放送を通じて台湾が正式に中華民国の版図に入ったことを声明
しています。
しかし、この陳儀の声明は、マッカーサーの一般命令第一号か
ら逸脱し、台湾を戦利品にしようという中華民国の計画によるも
のであり、実態は単なる「行政権の移譲」にすぎません。
というのは、中華民国が台湾における日本の投降代表に指定し
たに過ぎない安藤総督が中華民国側の「統治権の接収」に従うこ
とを約束したからといって、それだけで領土という主権の変更が
行われたなど、国際法の常識からはとうてい考えられないことだ
からです。また、この場合の統治権とは単に行政権を意味するも
ので、日本の台湾総督府が台湾を接収した中華民国台湾行政長官
公署への行政権の引き渡しと考えるのが妥当であり、決して「返
還」ではありませんでした。
もしこれを「返還」と認めるならば、なぜ日本は台湾などを放
棄すると謳ったサンフランシスコ講和条約に署名したのか、合理
的説明がつかなくなります。講和条約締結の時点まで、法的に台
湾が日本の領土と認められていたからこそ「放棄」が成立するの
です。「返還」した領土を「放棄」することなどありえません。
以上のことから結論を申せば、日本はサンフランシスコ講和条約
に基づいて台湾を放棄しただけであり、一九四五年に「中国への返
還」は行っていません。それは同条約の締結国であるアメリカやイ
ギリスなど連合国の見解であるだけでなく、実は中華民国ですら日
華平和条約を通じ、その取り極めを承認しているのです。
それでも中華民国は自らの台湾統治を正当化すべく、そして中華
人民共和国もまた中華民国の承継国家として台湾を手中に収めるべ
く、これまで「一九四五年の中国への返還」を歴史事実であるかの
ごとく宣伝してきた、いわば一種のプロパガンダなのです。
従って、日本の子供たちが使用する地図帳で、台湾について「一
九四五 中国へ返還」と記述することは重大な誤りです。
もしこの地図帳を使っている生徒から「台湾の人々は中華人民共
和国の旅券で日本に入国することになっているのですか」とか「日
本人が台湾に行く場合、中華人民共和国のビザを取得して行かなけ
ればならないのですか」という質問があった場合、御社はいったい
どのように答えられるのでしょうか。
以上、いささか長くなりましたが「返答」の問題点を指摘しまし
た。
そこで、再度質問を繰り返さざるを得ませんので最後に掲載いた
します。全国の中学生に対し、重大な責任を有する教科書会社とし
て、ぜひ正面からお答え下さい。
一、『新しい社会科地図』は、日本人の中学生が使用する教科書で
ありながら、現実も日本政府の見解も無視して、あえて中華人民
共和国の主張を組み入れた資料を使用することで、台湾を中華人
民共和国の領土と表記するのは、いったいどのような理由からで
しょうか。
二、中学校学習指導要領では、「地球儀や世界地図を活用し、緯度
と経度、大陸と海洋の分布、主な国々の名称と位置などを取り上
げ、世界の地域構成を大観させる」ことを求めています。その点
で、台湾を中華人民共和国の領土と表記することは「世界の地域
構成を大観」することを妨げることになりますので、明らかにこ
れに違反しています。来年の供給本ではこれらの誤りを訂正する
意思はありますか。
私どもの指摘を受け入れ、この上は速やかに誤りを訂正し、来年
の供給本において正しい記述を掲載していただくことを切に望みま
す。もし、指摘を受け入れられないのであれば、なぜ受け入れられ
ないのか、速やかにその理由をご回答のほどお願いいたします。
尚、先の質問の折もご了承いただきましたが、今般もまた再質問
状並びにご回答は公開とさせていただきます。ご了承のほどお願い
いたします。
平成十七年八月三十日
日本李登輝友の会『日台共栄』編集部
編集長 柚原 正敬
東京書籍株式会社
編集局社会編集部 福田行高様
平成17年7月 19日
日本李登輝友の会『日台共栄』編集部 御中
東京書籍株式会社
編集局 社会編集部
福田 行高
『新編新しい社会科地図』ご質問への返答
このたび,貴台から7月4日付けで頂戴したしましたご質問に返
答させていただきます。返答が遅れましたことをお詫び申し上げま
す。
今回ご指摘を賜っております『新編新しい社会科地図』は,文部
科学省検定済み教科書としての地図帳でございます。文部科学省の
検定基準では,外国の国名の表記は,原則として『世界の国一覧表』
によることと定められております。『世界の国一覧表』は,外務省
監修のもとに発行されております。台湾は独立国家として扱われて
おりません。対外関係,すなわち国名を含めた領土・領域の記載に
つきましては,こうした書を含めて日本国政府の見解に基づいて取
扱っております。
なお,台湾と日本との第二次世界大戦終了後のかかわりにつきま
しては,以下の二点をふまえて記載いたしております。一つは昭和
20年8月に受諾したポツダム宣言でございます。ここには「カイロ
宣言の条項は履行せらるべく,又日本国の主権は,本州,北海道,
九州及四国並に吾等の決定する諸小島に局限せらるべし」と記され
ております。もう一点は,昭和20年10月25日に台北において当時の
台湾総督らが署名しました降伏文書でございます。これ以降,台湾
は事実上日本領でなくなっております。
以上,編集上の考えをお伝えするしだいでございます。よろしく
ご理解のほどお願い申し上げます。
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