【産経新聞「「美しき勁き国へ」:2022年3月7日」https://www.sankei.com/article/20220307-XFDAR3LGMFMLJAYVK74DXB3I2M/
ロシアのプーチン大統領のウクライナに対する狂気の侵略が続く。プーチン氏は3日、フランスのマクロン大統領に目的達成まで攻撃はやめないと宣言した。無数の命を奪ってでもウクライナ全土を奪いとろうとするプーチン氏の異常な決意を支えるのが核の力だ。「われわれは核大国だ」という恫喝(どうかつ)はプーチン氏の本心であろう。
冷戦終結から約30年、私たちはいま初めて、核の使用をいとわない専制独裁者の出現に直面し、あってはならない現実に驚愕(きょうがく)している。同時に私たちはプーチン氏に立ち向かう鮮烈な指導者の出現を得た。ウクライナのゼレンスキー大統領だ。氏は米国が亡命の手段を申し出たのに対し、「必要なのは武器だ。乗り物ではない」と拒否した。米国と北大西洋条約機構(NATO)にウクライナ上空への飛行禁止区域設定を要請し拒否されると、ならばもっと武器や戦闘機を送れと要求した。
戦い抜く姿勢は1ミリも揺らいでいない。命懸けだ。国と運命を共にする覚悟を世界に示した。人々の心に、あるべきリーダー像を深く刻みこんだ。リーダーとは戦うものだ。国を愛するとは命を懸けて守ることだと示した。21世紀に引き起こされた異常な戦争にどう立ち向かうかをゼレンスキー氏の決断が示している。プーチン氏の悪魔の核の脅しに立ち向かうには、戦うしかないのだと告げている。
これこそ、日本人が心に刻むべき姿であろう。国を守ることは、こういうことだったと、思い出すべきだろう。日本は敗戦後、戦うことを忘れた。祖国は自らが守るものだという国家としての原点を捨て去り、米国に守られるのを当然視してきた。そんなだらしのない国を、世界は生きのびさせてはくれまい。
ウクライナと同様、日本もロシアの脅威に直面している。そこに中国の脅威も加わっている。世界中で2つの異形の核大国にはさまれ、常に航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)をかけているのは日本だけである。それだけ日本を取り巻く環境は厳しい。プーチン氏の核の恫喝が成功すれば、中国は台湾や尖閣諸島(沖縄県石垣市)と一体であり、沖縄県も中国領だと主張し、核で脅してくる可能性があるだろう。そのとき日本はどうするのか。
岸田文雄首相は広島出身であることを強調し、非核三原則を強調するが、それで日本を守れるのか。岸田首相は広島出身であるとともに日本国の首相として、日本国の安全に責任を果たすべき地位にある。ゼレンスキー氏のように愛国と国防の精神で立ち上がるしかないはずだ。専制独裁者が核を持ってその暴力で目的を達成しようとするとき、それに立ち向かうのに、外交的話し合いだけでは到底、不可能だと、日本国も日本人も目覚めなければならない。
ロシアのプーチン大統領との戦いに敗れることは人類の悲劇であるとともに、間違いなく日本の悲劇となる。相手をひるませるに十分な軍事力が必要だ。
この当然の事実にドイツのショルツ首相は突然気がついた。年来の、対露宥和(ゆうわ)策、軍事的努力よりも経済的利益の追求を優先してきた路線を一気に反転させた。ロシアからドイツに天然ガスを輸送する海底パイプライン「ノルドストリーム2」の認可手続きを凍結し、ヘルメット5千個の援助計画を対戦車兵器1千基、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」500基の供与へと方向転換した。殺傷兵器は供給しないというドイツのパシフィズム(平和主義)政策を捨て去り、国防費を国内総生産(GDP)比2%超に即、引き上げると宣言した。
岸田文雄首相のウクライナへの1億ドルの緊急人道支援は湾岸戦争のときと同じだ。防弾チョッキの提供はドイツのヘルメット支援の周回遅れだ。紛争国への軍事援助を禁ずる法律を直ちに変えて、プーチン氏の侵略に立ち向かうウクライナを助ける最前線に立たずして、日本の未来はない。
日本を狙う中国は、ロシアよりもはるかに手ごわい。習近平国家主席はプーチン氏のように、世界に丸見えの形で手荒なまねなどしない。世界のメディアや中国人民の目からも見えない形で陰惨なジェノサイド(集団殺害)を進める。折しも5日開幕の全国人民代表大会(全人代)で国防費の伸びは、GDP実質成長率の政府目標「5・5%前後」を上回る前年比7・1%増とされた。ウクライナ騒動の最中、着々と軍拡を加速させている。
中国の脅威の前で日本は丸裸状態だ。今、私たちは真剣に究極の危機について考えなければならないと思う。ウクライナはゼレンスキー大統領以下、男たちが戦い、女性や子供たちを陸地づたいに周辺の友好国に避難させている。
だが、いざとなったとき、日本国はどうするのか。男たちは戦うか。女性や子供たちを避難させるとして、行く先はあるのか。日本を守る海は国民の逃げ道を塞ぐ海にもなる。平和を信ずる国であるから地下壕もない。
ドイツが一瞬で国際政治の本質を理解して豹変(ひょうへん)したように、日本も大転換すべきときだ。自衛隊だけに国防の責任を負わせる精神ではこの国はもたない。
国民全員が国を守る心を育み、その上で国防の準備を急ぎたい。防衛費を大幅に増やし、中距離ミサイルを含む攻撃力の保持や、米国の核兵器を自国に配備して共同運用する「核共有」について国民とともに広く議論するのがよい。
ドイツが米国と核を共有しているように、日本も米国と核を共有する可能性を探り、米国との同盟関係の強化と憲法改正が急がれる。
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