問われているのは日本の覚悟  浅野 和生(平成国際大学副学長)

◆パネルディスカッションのまとめ

 ここまで、4人のパネリストの方々は、時間の制約のために、あるいは十分にお考えを述べていただくことはできなかったかもしれませんが、日本と台湾の現状を浮き彫りにし、日本が今とるべき道は何かについて明らかにするという、本会の初期の目的は達せられされたのではないかと思います。パネリストの皆さんには、円滑な進行にご協力いただきましたこと、感謝申し上げます。

 さて、もし幸いなことに、東アジアにおいて平穏な日々が今後長く続くとすれば、日本と台湾はこれまでの「実務関係50年」の先に、やがては良好な「国家と国家の関係」を築いていくことになるのでしょう。しかし今日、我々は、中国による台湾への武力発動の脅威に直面しており、台湾併合を目ざす中国は、マスコミやSNS、そしてフェイクニュースによる世論操作、企業活動や学術活動を通じて台湾の人々の中国への取り込みを図るなど、さまざまな策動を繰り返しています。その意味で台湾および日台を取り巻く危機が「目の前に迫っている」のではなく、すでに「危機は常態化している」のです。

 さらに、予想される安全保障上の緊急事態には、日本と台湾の間で即時の意思疎通、情報共有がなされなければなりませんが、日台間にはその法的基礎がありません。

 日本李登輝友の会では、2013年に「我が国の外交��ぢ安全保障政策推進のため『日台関係基本法』を早急に制定せよ」という提言を出し、自民党をはじめ主要な政治家や関係者に訴えてきました。その後、本日ご臨席を賜りました謝長廷駐日代表のアドバイスもあり、2019年からは「日台交流基本法」と名称を変えて、その制定のためのアピールを続けています。

 ここに参集しておられる政治家、関係者の方々が努力をされているとは存じますが、非常時、緊急時における、軍事を含む情報共有については、日本と台湾のパイプは心もとないと言わざるを得ません。ですから、「日台交流基本法」の制定は喫緊の課題です。

 また、台湾海峡危機のような非常事態、緊急事態を招かないためには、日米台の安全保障協力関係を強め、日本の国防力を高めていなければならないことは言うまでもありません。

 しかし、それ以上に、本日のパネルディスカッションが浮き彫りにしたことは、日本の覚悟はどうなのか、ということです。

 今や日本の「国家の矜持」を保つために、そして長年培われてきた信頼関係で結ばれた日本と台湾が、「自由、民主、法の支配」という人類普遍の、かつ不可欠の価値を共有する日台両国が、アジアの平和をかき乱し覇権を拡張して、自由と人権、人々の幸福実現に反する価値を広げつつある中国に対して、手を携えて対抗していかなければならない。これについて台湾の蔡英文政権は切迫した危機感の下、自主国防の強い決意とともに日本やアメリカと手を結ぼうと真摯な努力を傾けていますが、日本はどうでしょうか。中国発の危機に対して、台湾と手を結んで戦うという明確な意思を日本政府が表明し、適切なタイミングで必要な行動をとることができるかどうか、これが問われているのです。

 それができなければ、日本と台湾のこれまでの良好な関係が損なわれるだけではなく、日本はどの国からも信頼されない、信頼に値しない国家に堕してしまいます。そうならないために、日本政府の一段の覚悟と行動を求めなければなりません。

 凶弾に斃れた安倍元首相が述べた通り、「台湾有事は日本の有事」です。日本政府が台湾と手を携えて東アジアの平和と自由、民主を守る決意を明らかにするよう、本日お集まりの皆さんの力を結集して、日本政府の決断を促していかなければならないと思います。

 それでは、最後に、本日の会のまとめとして、日本李登輝友の会会長の渡辺利夫先生に総括をお願いして、このパネルディスカッションを閉じたいと存じます。

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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