対中政策が乖離する自民と公明  浅野 和生(平成国際大学副学長)

【世界日報「View point」:2022年7月7日】https://vpoint.jp/politics/220617.html

 第26回参議院通常選挙に臨む自民党のマニフェスト(政権公約)の、安全保障政策はまことに不思議な文章であった。

 自民党は、マニフェストの冒頭に「毅然《きぜん》とした外交・安全保障で、“日本”を守る」の章を置き、「外交と防衛は国の根幹」であるという認識を示した。しかも、「日本の平和と安全を維持する」という文言を用いず、「国際社会の平和と安定を実現する」として、日本一国の平和追求ではなく、世界の平和に責任を負う姿勢を明らかにした。「来年のG7(先進7カ国)議長国として、普遍的価値に基づく国際秩序の維持・発展に主導的役割を果」たすとも宣言した。

◆公約で中国に言及せず

 さらに「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、「米、豪、印、欧州、ASEAN(東南アジア諸国連合)、太平洋島嶼《とうしょ》国、台湾等との連携」強化を謳《うた》い、台湾との協調を明言した。これは、「自由で公正な経済秩序の構築」「人権尊重を後押しする国際協調・指針策定・輸出管理の検討」「法の支配と基本的人権の尊重に基づく司法外交」の推進と合わせて、自由と人権、市場経済と法の支配を守るという、価値観を共有する国々との連帯の表明であり、今日の日本にふさわしいものであった。

 しかし実は、上記の文は中国に言及しなかった。すなわち自民党の令和4年参議院選挙公約、「決断と実行。」の3〜4ページは、毅然とした外交・安全保障について語り、「国際社会の平和と安定を実現する」「国防力を抜本的に強化する」「海上保安体制を強化し、海洋秩序を保つ」「経済安全保障をさらに推進する」の四つについて論じているが、「ロシアのウクライナ侵略、中国や北朝鮮の軍事力強化など、安全保障環境が加速度的に厳しさを増す中」という冒頭の情勢説明がある外、「中国」に対する政策が出て来ないのである。

 立派な価値観外交を展開して「日本を守る」と言っているが、中国に対する政策については論じていない。

 一方、公明党のマニフェストは、「経済の成長と雇用・所得の拡大」を最初に置き、「誰もが安心して暮らせる社会へ」が続いて、3番目にようやく「国際社会の平和と安定」が出てくる。これが「公明党らしさ」であろう。

 公明党のマニフェストは、自民党よりはるかに多弁で、3番目の「国際社会の平和と安定」において「戦争・核兵器のない世界のための国際秩序の構築」その他もろもろについて語っているが、「価値観を共有する国々との連帯」を述べてはいない。

 そこにウクライナに侵攻したロシアへの批判はあるが、公明党は窮極的に、どの国とでも友好関係を持ちたいのである。だから北朝鮮についても、「核、ミサイル、そして何よりも重要な拉致問題を解決」し、「不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現」を目指すと宣言している。

 また、「日中関係」については、現在の中国における人権や基本的自由の尊重について「国際社会から具体的な懸念が示されて」いるが、公明党はこの「懸念を共有している」ので、「中国は透明性をもって説明し、国際社会に対する責任を果たすべき」だと主張した。しかしここで公明党は、中国に「国際社会が納得するように説明してほしい」と注文しているだけで、ウイグル族への強制労働や、香港の「一国二制度」の終焉《しゅうえん》と自由・民主の抹殺について、事実と認定して非難し、改善を求めているわけではない。

 だから「日中国交正常化」から50年の節目に当たる2022年、公明党は「与党交流をはじめ政党間交流、民間交流を活発化させ、積極的な対話を推進し、相互理解を深める努力」を進めると明言したのである。

◆危機への対処に不安も

 要するに、公明党は、自由と民主、法の支配とルールに基づく市場経済などの価値観共有を基準とせずに、近隣友好外交を提唱しているのである。これは、「自由で開かれたインド太平洋」の維持を求める今の自民党とは懸け離れた外交政策というしかない。

 国際情勢が深刻さを増すなか、中国による台湾併合のアクションが待ったなしの今日、岸田内閣は、外交の基本理念が乖離《かいり》している公明党の議員を抱え込みながら、アメリカをはじめとする同盟諸国と協調しつつ、危機に対処していけるのだろうか。

<<(あさの・かずお)>>

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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