【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2023年8月23日号】https://www.mag2.com/m/0001617134*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付けたことをお断りします。
◆与党候補の頼清徳氏の支持率が初の4割超え
来年1月に予定されている台湾総統選挙ですが、8月21日に発表された世論調査では、民進党の頼清徳副総統の支持率が43.4%となり、初めて4割の大台を越しました。頼清徳氏といえば、過去に台湾独立を主張するなど「台独」色が強く、中国がもっとも警戒し、嫌う候補者といえるでしょう。
一方で、中国との融和路線を主張する国民党の侯友宜氏は前回から支持率を落として、13.6%に低迷、台湾民衆党・党主席の柯文哲氏は26.6%を獲得して2位となりましたが、それでも頼清徳氏は16.8ポイントの大差を付けています。
新聞記事では、頼清徳氏が8月中旬に行ったアメリカ、南米訪問が有権者に好感された可能性があるとしています。それもあると思いますが、中国の台湾に対する嫌がらせに加えて、中国経済の落ち込みも大きいのだと思います。
中国は8月21日から、台湾からのマンゴーの輸入を一時停止すると発表しました。表向きは害虫が検出されたことを理由としていますが、台湾当局は、頼清徳氏が南米を訪問した際に、アメリカに立ち寄ったことへの対抗措置だと見ています。
実際、中国は19日に台湾周辺で軍事演習を行い、台湾を威嚇しています。
こうした中国側の威嚇に対して、頼清徳副総統は、「アメリカを経由したことを口実に中国が脅しをかけるなら、軍事的な威嚇に酔って台湾の選挙への介入を企てていることの裏付けになる」と強調しました。
こうした毅然とした態度が、支持率上昇に繋がったと思われます。2020年の総統選でも、その前年の1月にに習近平国家主席が台湾に「一国二制度」を強引に押し付けるような演説を行ったことで、台湾国内での反発が高まり、これに反論した蔡英文総統の支持率が急上昇、翌年の総統選では史上最高の得票で蔡英文総統が再選されたわけです。
◆中国経済を象徴する中国恒大集団の破産申請
加えて、中国経済の影響力が如実に落ちてきていることも関係しているでしょう。すでに大きく報じられているのでご存じの方も多いでしょうが、8月18日、中国恒大集団がニューヨークで破産を申請しました。
先週のメルマガでも述べたとおり、現在、中国の不動産市況は非常に低迷しています。しかも不動産は自動車同様、建設にあたりさまざまな部材を使用すると同時に、電化製品の購買にもつながりますので、経済に与える影響が非常に大きいのです。
地方政府が財源確保と経済成長維持のために、土地開発を行ってきたことは周知のことでしょう。それだけ不動産セクターは巨大なのです。
これまでも、政府による不動産規制や景気の上下によって、不動産セクターの危機が噂されることは何度かありました。そのたびに中国各地で開発が止まったゴーストタウン「鬼城」が話題となりました。
しかし、今回の恒大集団は中国の不動産で最大手クラスの巨大企業であり、しかも負債総額は推定3000億ドル超で「世界最大の負債を抱える不動産開発会社」と言われ、約12兆円の債務超過となっており、その影響ははかりしれません。
今回、アメリカで破産法の適用を申請したのは、中国では会計制度がはっきりしていないのに加えて、破産をよしとしない政権官僚が多いので裁判所が破産申請を認めない可能性が高いことに加えて、外貨建て再編計画を有利に運ぶためだという意見もあります。
もしそうであれば、中国国内での損害はよくわからないまま処理もできずに広がり、気がついたときに破裂するような崩壊が訪れる可能性もあります。
恒大は建設会社への買掛金などが19兆円、不動産購入者への契約負債などが14兆円あり、計33兆円が不良債権化するとも目されています。
こうした状況から鑑みて、台湾企業からしても、もはや中国経済に頼るどころか、一刻も早く離脱したほうがいいという気運が高まっているところでしょう。結局、金の力だけの繋がりは、金の力がなくなれば、あっという間に離れていくということです。
◆中国離れのチャンスがめぐってきた日本経済
前回の総統選挙では、蔡英文総統が史上最多得票で再選された一方で、国民党候補だった韓国瑜も「惨敗ではなかった」という声は少なくありませんでした。しかも、選挙前年の同時期(2019年8月16日)の世論調査では、蔡英文の支持率47%に対して、韓国瑜42%と、それでも拮抗していました。
これに比べれば、今回の国民党候補者・侯友宜氏の支持率の低さは際立っています。もはや中国との融和路線を掲げること自体が、マイナス要因以外の何ものでもないことがわかります。台湾人のあいだでは「中国経済」への期待よりも、中国のリスクのほうが強く意識されてきているということなのです。
今年は日中平和友好条約45周年ということもあって、中国財界から日本に送られる秋波も頻度が上がっており、これに対する日本財界の期待も高まっているようです。
しかし、その一方で日本の福島第一原発処理水の海洋放出について、まったく科学的根拠もなく反対し、海洋放出すれば「必要な処置を取る」とし、日本の魚介類輸入への検査強化により事実上の禁輸措置を取る姿勢を見せています。
逆に言えば、日本にとってはこれが中国離れのいい機会になるのではないでしょうか。中国頼みの経済は、安全保障の観点からも非常に危険です。台湾ではそのことが強く意識されつつあるのです。
──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。