本誌ではこれまでも月刊「明日への選択」(日本政策研究センター)掲載の論考を紹
介してきたが、現在発売中の平松茂雄氏(中国軍事研究者)と古澤忠彦氏(元海上自衛
隊横須賀地方総監)の対談「これではダメだ! 日本の海洋戦略」は、読んでいて背筋が
凍ってくるほどの衝撃的な内容だ。台湾問題にかかわる者にとって、改めて中国の狙い
を認識させる直言である。
昨年4月に制定して7月20日に施行した海洋基本法だが、対談は、海洋政策を国家政策
として戦略的に進めるというこの法律の意義は評価するものの、法の後盾として「海洋
力」、すなわち海上保安庁が対処できない場合は海上自衛隊を出動させるという「肚」
が必要だという共通認識から出発する。
海洋基本法が制定された背景には、日本の海洋権益がすでに中国によって侵害されて
きたという経緯があるにもかかわらず、この法律には日本の海洋権益が外国によって侵
害されたときの対処について規定されていない不備があると指摘する。
現行法では、海上自衛隊が出動したとしても、「防衛出動」が発令されていない限り
何もできないのだという。
その点で、中国は尖閣諸島を自国領とする領海法を1992年に制定し、領海および接続
水域に許可なく進入する外国の軍艦を排除する権限を自国の軍艦および航空機に与えて
いるので、もし尖閣諸島付近で事が起これば、発砲して攻撃する根拠となる法律を備え
ているとも指摘している。
それ故、日本の法制は異常であり、一日も早く自衛隊法に「領海警備」の任務を追加
することが必要だと説く(古澤氏)。
では、中国はなぜ日本の領海を侵すようなことをこれまでやってきたのかと言えば、
それは台湾を統一するためだという(平松氏)。
平松氏はこれまでも口を酸っぱくして、中国の狙いが台湾併合にあることを説いてき
ているが、ここで改めて日本にとって「台湾が中国の手に落ちることは死活問題」だと
力説する。台湾は日本のシーレーンの重要な場所に位置する「生命線」であり、「台湾
問題は日本にとっても生死に直結する問題であることを強く認識しなければならない」
と警鐘を鳴らす。中国の狙いは「台湾問題の解決と日米安保体制の解消」にあるので、
台湾に潜水艦を売る国がないのだとすれば、日本が売ればよいとも提案している。
平松氏は「日本にとって台湾問題が他人事でないもう一つの理由」があるという。そ
れは、中国が台湾統一に打って出るとき「わが国の南西諸島はわれわれが好むと好まざ
るとにかかわらず、戦争に巻き込まれる」のだと指摘する。つまり、中国は尖閣諸島と
いう個別の問題ではなく、戦略的価値が大きい尖閣諸島を含む日本の南西諸島を、台湾
併呑と同時に押さえにくると予見している。
では、中国はいつ台湾統一に動き出すのか──。この問題についてもお二人は「日本
にとっても台湾にとっても残された時間は少ない」として年限を指摘している。
いずれにしても、平松氏が指摘するように「日本の命運は、台湾問題に対して対応で
きるだけの防衛体制の構築できるかどうかにかかっている」。
この対談はいずれ冊子として日本政策研究センターから出版されるという。日台関係
者にとって必読の冊子となろう。まずこの「明日への選択」の対談をご覧ください。
(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)
■日本政策研究センター
http://www.seisaku-center.net/
*「明日への選択」は年間購読制ですが、1月号だけでも購入できます。