などの首長と議員など9種類の選挙が行われる統一地方選挙まで1ヵ月に迫った。台北市や台中市な
どで中国国民党候補の劣勢が伝えられる。
台北市長候補は複数いるが、与党である中国国民党の連戦・名誉主席の長男の連勝文候補と、無
所属で野党の民進党が支持する台湾大学医学部教授の柯文哲候補の2人に絞られた。
台北市長はもともと中国国民党の地盤。軍人や公務員などの支持者が多いからだ。後に総統に就
く民進党の陳水扁がつとめたこともあるが、1998年に現総統の馬英九が陳水扁を破って当選してく
つがえし、現在の●龍斌まで中国国民党が続いている。
ところが、今回は立候補した連候補は6月以降の世論調査で柯候補にリードを許し続けていて、
劣勢を挽回できないでいる。10月21日に中国国民党系の「聯合報」が発表した世論調査でも、柯候
補の42%に対して連候補は29%でしかない。
その原因はどこにあるのか。台湾選挙レポートを発表し続けている評論家の宮崎正弘氏が分析し
ている。
その最大の要因は、台湾の「太陽花学運(ひまわり学生運動)」に続く「中国共産党に真っ正面
から戦いを挑んだ香港の学生の、物怖じを知らない世代の出現」とし「こうした若者等の新しい運
動形態が、国民党有利という世論を変えた」と見る。同感である。
本誌で紹介したように、中国問題研究家の鈴木上方人(すずき・かみほうじん)氏は、ひまわり
世代に注目して下記のように指摘していた。
<ヒマワリ運動の主力となっている台湾の20歳から39歳までの若者の数は717万人で、それは全有
権者数1800万の40%に当たる。この年齢層は今まで政治に対する関心が薄く、投票率も一番低い。
投票率の低かったこの年齢層の投票率が上がれば、その分選挙への影響は絶大であろう。>(ヴェ
クトル21:2014年10月号)
ひまわり学生運動は多くの台湾人の支持を得た。台湾の独立を希望する20代は73・6%に達し、
全般的にも62・7%が希望している。それが台北市長選の世論調査に現れている。
長らく中国国民党の地盤だった台中市の市長選でも、林佳龍(民進党所属の立法委員)候補が現
職市長の胡志強(中国国民党所属)候補の支持率を上回っている。
●=都の者が赤
台湾六大市長選挙、国民党が各地で苦戦の様相
連戦の息子、連勝文(台北市長候補)は不人気、党の集票マシンも迷走中
【宮崎正弘の国際ニュース・早読み:平成26(2014)年10月31日】
11月29日の投票日まで一ヶ月を切った。
台北、新北(もとの台北県)、台中、桃園(今回から政令指定都市)、台南。そして高雄の六大
市長選挙は事前の予想に反して、国民党が大苦戦を強いられている様相である。
第一の理由は馬英九総統の不人気である。
第二は台北市長候補に代表されるように、大陸との融和をはかる中華思想の体現者、連戦(国民
党名誉主席)のあまりに無原則的な妥協路線に多くの国民が反発しており、党内がガタガタ、とて
も挙党一致体制にはない。
第三が王金平(国会議長、本省人)と党内の対立が続き、集票マシンが円滑に動かないようであ
る。
10月24日、台北市内では奇妙なデモが展開された。
「同性愛者同士の結婚を認めよ」と同性愛者、その支持者、そして駐在外国人が加わってデモは
65000名に膨れあがったのだ。
野党・民進党は蔡英文・党首も蘇貞昌・元首相も「賛成」を表明していた。
土壇場のデモ前日、与党国民党の台北市長候補の連勝文がフェイスブックで、「賛成。国際的傾
向であり、この国際基準に従うべきだろう」とおっとり刀で書き込んだ。デモの盛り上がりに便乗
したのだが、翌日、この書き込みが消されていた。
党内の反対勢力が、つよく抗議した結果と見られる。
首都の台北市は外省人が多く退役軍人や公務員が集中して住むため、台北は国民党の鉄票で固め
られた地盤であるとされてきた。
国民党の集票マシンがつねに機能しているため、いかに連勝文という不人気な二世(彼は連戦国
民党名誉主席の息子)でも、当選は堅いと見られてきた。
ところが事前のムードは対立候補無所属の柯文哲がかなりの差を付けてリードしていることが事
前世論調査で判明している。
柯は医者、無所属だが、民進党が支援しており、先月、東京で開催された講演会でも数百人の支
持者があつまって気勢を挙げた。
日本に暮らす台湾籍の人々も投票日には帰国して投票する(台湾は不在者投票も、外地での投票
もない)。
▼連戦の息子、おもわぬ不人気に焦り
焦る国民党は29日、蒋介石親子の眠る御廟に詣でて、必勝を近く。
連勝文は、桃園県の慈湖にある蒋介石親子の墓地に花輪を捧げ、「軍人恩給の増加(毎月二万元
を二万五千元とする)する」などを訴えた。
たまたま慈湖に観光で来ていたツーリストは中国大陸からで、「連勝文、頑張れ」を激励された
そうな。
アメリカン・エンタプライズ研究所(AEI)のミカエル・マズザ研究員の調査では、いまや台湾
と香港で「わたしは中国人だ」と認識する国民が激減しており、「香港と台湾が中国の一部だ」と
いう考え方をアナクロニズムと答える(台北タイムズ、10月30日)。
ちなみに台湾での世論調査では「わたしは台湾人」とする回答が60・4%、「中国人であり台湾
人である」とするのが32・7%、そして「わたしは中国人だ」と答えたのは僅か3・5%だった。
世界が懼れる中国共産党に真っ正面から戦いを挑んだ香港の学生の、物怖じを知らない世代の出
現は、「ひまわり学生運動」として先輩でもある台湾学生に共通した傾向である。
こうした若者等の新しい運動形態が、国民党有利という世論を変えたとみて差し支えないのでは
ないか。