【6月21日 産経新聞】
【台北=長谷川周人】台湾の馬英九政権は20日、発足から1カ月が経過した。対中融
和による経済の浮揚を掲げて政権を奪還した馬総統は、9年ぶりの中台対話の再開で週
末チャーター直行便の7月運航などを実現。目に見える成果を生み公約を実行に移しつ
つあるが、物価高騰に歯止めがかからず、尖閣諸島(中国語名・釣魚島)の領有権をめ
ぐる問題では日台関係の悪化を招いた。危機管理能力を疑問視する声もあり、支持率は
下降傾向にある。
■見えぬ経済効果
5月20日に就任した馬総統は、「6・3・3」という所得倍増計画を公約に掲げた。今後
8年で経済成長率6%を達成し、失業率は3%に抑え、2016年には1人当たり国内総生産
(GDP)を3万ドルに引き上げるという内容で、そのためには対中関係を改善させ、巨
大市場を抱える中国との経済協力強化が不可欠としてきた。
公約実現の第1弾が、中台窓口機関による対話再開で、北京での今月中旬の協議では、
週末直行便と中国人観光客の受け入れ拡大の7月実施にこぎ着けた。19日からは、金門、
馬祖両島と対岸の中国の直接往来を認める「小三通」(通商、通航、通信)の利用対象
枠を全住民に拡大。直行便と「拡大・小三通」は外国人にも開放され、中台間の人的な
経済・観光往来に風穴を開けたといえる。
しかし、経済界が求める貨物便と海運の直行は先送りとなり、台湾の主権が絡む中台
の政治課題は棚上げ状態だ。域内経済のてこ入れでも、牽引(けんいん)役となる公共
投資はまだ具体策が見えず、7月から新たに始まるガソリンや電力などの料金引き上げ
は、政権にとって逆風となりそうだ。
■高まる不満の声
一方、日本の巡視船と台湾の遊漁船の衝突・沈没事故で、政権は対日強硬論を振りか
ざし反日的世論を助長させ、日台関係の悪化を招いた。対日外交分野で「特別編成チー
ムが機能していない」(野党・民主進歩党幹部)と危機管理能力への疑念も出ている。
株式市場は総統就任日を頂点に下降を続け、政権支持率は低下している。台湾紙・聯
合報の世論調査では、馬総統に満足と答えた人は政権発足時に比べ16ポイント低下し50
%。「不満」は20ポイント上昇して30%となった。またTVBSテレビの調査では、尖
閣問題への処理で政権支持者は「まあ満足」を加えても38%にとどまり、逆に45%が不
満と答え、うち23%が「非常に不満」と答えた。