台湾を見る目に変化あるか  黒田 勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)

 米国や日本が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を進めているのは、中国が太平洋に進出することで自由で開かれたインド太平洋の平和と安定が危うくなるからに他ならない。台湾は中国の太平洋進出を防ぐ「瓶の蓋」となっていることから、中国による台湾併呑を阻止することが最大の狙いである。だから、日米に台湾が加わることは当然であり、その国益は一致している。

 さて、韓国はいったいどういう立ち位置に立つのだろうと思って、先般5月21日のバイデン大統領と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の会談後に発表された「共同声明」を注目していたところ「南シナ海を含め、航行および領空通過の自由などの国際法を尊重し、平和と安定を維持する責任を再確認する。インド太平洋地域の安全保障と繁栄に必要不可欠な要素として、台湾海峡の平和と安定を維持する重要性を繰り返し述べる」と記されたと報じられた。

 このことは本誌でもすでに触れたことだが、今朝(5月30日)の産経新聞は黒田勝弘・ソウル駐在客員論説委員が「台湾を見る目に変化あるか」と題して米韓の「共同声明」について詳しく言及していた。

 慰安婦や徴用工、竹島などで顕著なように、韓国の対日歴史認識には誤解と歪曲があり、それを克服して日本と協調して欲しいというのがバイデン大統領のメッセージだった。

 黒田氏は韓国には対中歴史認識にも誤解と歪曲があると指摘し、尹錫悦大統領は就任演説で「自由」を繰り返し強調していたことを手掛かりに「新政権下の韓国には、その観点から中国および台湾を見る目に変化があるかもしれない」と述べている。そして「日米韓」に加え「日米韓台」という発想もあっていいのではないのかと期待する旨を述べている。

 確かに、東アジアの安定のためには「日米韓台」というフレームはあって欲しい。あって欲しいが、韓国が克服しなければならない歴史認識の壁は相当に高いことも確かだ。また、小中華思想を脱しなければならないこともよく指摘される。今後の尹錫悦政権の対日、対中、対台湾の動きを注視していきたい。

—————————————————————————————–台湾を見る目に変化あるか【産経新聞「から(韓)くに便り」:2022年5月30日】https://www.sankei.com/article/20220530-ITTIIIKV4BPDRHGL7CPUWI2VDU/?734964

 5月21日にソウルで行われたバイデン大統領と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の米韓首脳会談共同声明で「台湾問題」が触れられ注目された。声明は南シナ海など海洋の航海の自由に言及した後、「両首脳はインド太平洋地域の安全保障および繁栄の核心要素として、台湾海峡における平和と安定維持の重要性を強調した」としている。

 ただ、米韓の公式外交文書に「台湾」が登場したのはこれが初めてではない。文在寅(ムン・ジェイン)政権下の昨年5月、ワシントンでの米韓首脳会談の共同声明に同様の文言が盛り込まれたのが初めてで、その後、年末のソウルでの米韓国防相による安保協議(SCM)の共同声明にも登場している。

 インド太平洋戦略を重視するバイデン政権が、韓国に対し?台湾重視?を説得しているという図式だが、これまで台湾問題に対する韓国の関心、配慮はきわめて低かった。理由はひとえに中国への気兼ねからだ。たとえば文政権は前記のSCMの後、政府機関が新産業関連のオンライン講演に招いた台湾の要人の招待を突然、中止し台湾から抗議されている。

 韓国の台湾に対する意識は1992年の対中国交樹立による断交以来、微妙である。これまでは無視に近かったが、最近はお得意の半導体生産でライバル関係になり一目置きはじめた。新しくスタートした尹錫悦政権は外交姿勢で?対中距離感?がうかがわれる。韓国は今後、台湾に対する姿勢にも変化があるのだろうか?

 ところで近年の韓国の対中歴史認識には誤解と歪曲(わいきょく)が存在する。日本支配から脱した1945年の「光復」はあたかも自力でもたらされたかのような主張が幅を利かし、いわゆる「上海臨時政府」の存在や抗日部隊など中国を舞台にした独立運動の歴史が実態以上にもてはやされている。

 当時、彼らを主に支援したのは、後に台湾に渡ることになる?介石の国民党政府だったにもかかわらず、現在の中国つまり毛沢東の共産党にお世話になったかのように、中国に対する歴史親善外交が目立つのだ。韓国は後年の朝鮮戦争(50〜53年)では、北朝鮮を支援するその共産党中国に侵略されているというのに。

 つまり韓国は台湾(中華民国)に歴史的義理を欠いてきたのだ。親日的な台湾を上から目線で皮肉る言説さえあり、台湾への武力侵攻も辞さずという中国に対するこれといったまともな批判もなかった。

 尹錫悦大統領は就任演説で「自由」を繰り返し強調し、個別国家を超えた普遍的で国際的な価値として「世界の自由市民との連帯」を主張している。新政権下の韓国には、その観点から中国および台湾を見る目に変化があるかもしれない。

 台湾の「自由」は中国の脅威にさらされ、韓国は核武装した王朝国家的な異形の北朝鮮と対峙(たいじ)している。韓国は「自由」がないがしろにされている北朝鮮や、それと協力・連帯する北方の中国、ウクライナ侵攻のロシアと「自由」の観点でどう付き合うのか。「日米韓」に加え「日米韓台」という発想もあっていいのではないのか。

(ソウル駐在客員論説委員)

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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