香港「流血」デモが世界的に注目されているが、不穏なのは香港だけではない。その隣の台湾に対して習近平国家主席率いる中国共産党政権(以下、「中国」と略)が軍事的圧力を強めているのだ。
近い将来、中国軍による台湾攻撃も想定されることから、台湾は5月27日から31日にかけての5日間、中国からの侵攻を想定した軍事演習「漢光35号」を実施した。戦闘機や攻撃ヘリ、地対空ミサイルまで参加させたこの大規模軍事演習に米軍将校も多数参加したのではないか、という噂が飛び交っている。
なにしろD・トランプ共和党政権は、歴代アメリカ政府の「親中」政策を全面的に見直し、台湾との関係強化を進めているからだ。
アメリカと中国、台湾との関係は複雑だ。
東西冷戦下、ソ連の脅威に対抗するためアメリカのR・ニクソン大統領は、中国を西側諸国に引き込もうと、1971年に訪中を表明(「ニクソン・ショック」と呼ぶ)。そして1979年、アメリカは中国を「中国を代表する国家」として承認し、台湾との国交はなくなった。これが現在の中国の台頭へと繫がっていく。
アメリカは「米華共同防衛条約」に代わって「台湾関係法」を制定、有償で武器などを提供することで台湾との実質的な関係を維持しようとしたものの、国際的には中国を優遇してきた。ほかの西側諸国も次々に中国と国交を樹立し、台湾は国際的に孤立していく。
◆中国は戦略的競争相手。米台間の軍事交流が復活
ところが’16年11月、大統領に当選したトランプは、台湾との関係強化に奔走する。当選からわずか1か月後の12月、トランプは台湾の蔡英文総統と電話会談を行い、その直後に成立した「’17年度国防授権法」で米台間の軍事交流について初めて明文化し、台湾海峡にミサイル駆逐艦を頻繁に派遣するようになった。
翌’17年12月、トランプ政権として初めて公表した「国家安全保障戦略」(NSS)において、中国を「戦略的競争」相手と名指しで批判した。1979年以来、38年間も続いた親中路線の転換を打ち出した一方で、オバマ民主党政権では言及されなくなっていた、台湾関係法に基づく台湾武器供与を明記した。
そして同じ12月に成立した’18年度国防授権法で、米艦艇の台湾寄港、米軍の演習への台湾の招待、台湾への技術支援などを促進する条文を盛り込んだ。
翌’18年3月には、台湾旅行法が成立、米政府の全レベルの高官の訪台、台湾高官の訪米および米政府高官との交流を許可した。
その2か月後の5月には、台湾で米台国防フォーラムを初開催し、8月に成立した’19年度国防授権法では、台湾との防衛協力強化を明記した。
そして今年6月、米国防総省が公表した「インド太平洋戦略報告書」において台湾を協力すべき「国家(country)」と表記した。事実上、台湾を独立国家と認定したわけだ。
ここにきて米台軍事同盟復活へ、「トランプ・ショック」が現実味を増している。
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江崎道朗(えざき・みちお) 評論家1962年、福岡県大川市生まれ。福岡県立伝習館高等学校卒業。1984年、九州大学文学部哲学科卒業。「日本を守る国民会議」事務局、日本青年協議会月刊誌『祖国と青年』編集長を経て、日本会議国会議員懇談会の専任研究員などを歴任。2016年夏から本格的に評論活動を開始。月刊「正論」、月刊「WiLL」、月刊「Voice」、日刊「SPA!」などに寄稿。2014年4月号から月刊「正論」に「SEIRON時評」、2016年12月21日から日刊「SPA!」に「江崎道朗のネットブリーフィング」を連載。主な著書に『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾―迫り来る反日包囲網の正体を暴く』『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本は誰と戦ったのか─コミンテルンの秘密工作を追求するアメリカ』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『知りたくないではすまされない─ニュースの裏側を見抜くためにこれだけは学んでおきたいこと』『フリーダム 国家の命運を外国に委ねるな』『天皇家 百五十年の戦い』 など多数。