中国生産のコスト優位が薄れ、中国における製造業に未来はないと見限った形だ。台湾の専門家も「貿易戦争が激化すれば米生産移転はさらに加速する」と見ているという。
蔡英文政権の新南向政策で中国からベトナムやミャンマーへ生産拠点を移している台湾企業も少なくなく、この新南向政策に乗らずに米国へという点は気になるものの、脱中国は台湾の生き延びる道だ。日本経済新聞の記事を下記にご紹介したい。
————————————————————————————-台湾製造業が米に生産網 貿易戦争で中国集中を転換【日本経済新聞:2018年8月6日】
台湾の製造業に米国で生産網を築く動きが広がってきた。ファクトリーオートメーション(FA)機器大手の研華(アドバンテック)が米工場の増強を決め、液晶パネルやサーバーなどの工場の建設計画も相次ぐ。台湾勢は中国で集中生産し、最大市場の米国に供給するサプライチェーン(供給網)を築いてきた。米中貿易戦争や人件費高騰で中国生産の優位が崩れると判断し、生産網の再編に踏み込む。
研華ナンバー2の何春盛執行董事が日本経済新聞記者と会い、「米製造拠点を強化し、売上高に占める米国比率を直近の27%から最大40%に高める」と語った。何氏は研華の共同創業者で、事業全体を統括している。
鴻海(ホンハイ)精密工業など台湾勢は生産代行や部品供給で世界IT(情報技術)の「黒子役」を担う。工場内でロボットなど生産設備を連携させるネットワーク機器を供給する研華は、黒子をさらに陰から支える。台湾の製造業全体の動向に精通している。
研華は中西部イリノイ州オタワのネットワーク機器工場を増強し、現地の需要増に対応する。「製造業は徐々に中国から離れていく」(何氏)と判断し、生産の大半を中国・台湾に集中してきた従来の体制を改める。理由は大きくふたつある。
ひとつはトランプ米大統領の保護主義的な政策だ。オタワは米製造業の衰退を象徴する「ラストベルト」(さびた工業地帯)に位置する。「選挙に向けトランプ氏が重視する地域。政府の支援が生産網の構築を後押しする」(何氏)とみる。
さらに、何氏は中国産の部材を使う製品は「今後制裁関税の対象になるかもしれない」とし、「米国生産でリスクを分散する」と述べた。
もうひとつは中国生産のコスト優位が薄れていること。何氏は「米中の製造コストは人件費以外はほとんど変わらない。中国の人件費高騰と米の自動化の進歩で差はさらに縮まる」と指摘した。
世界の製造業の潮流を先読みして動くのは台湾企業の身上だ。始まりは1960年代。南部の高雄などに輸出加工の特区を設置し、安価な労働力を武器に米電機大手などの工場を誘致。ラジオ、白黒テレビからパソコンなどに品目を広げ、「台湾の奇跡」と呼ばれる経済発展につなげた。
成長に伴う人件費高騰に直面した80年代には、いち早く中国生産にシフト。日米欧が進出を本格化したのは2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟以降だが、鴻海などは先んじて、米アップルのスマートフォン(スマホ)などを太平洋をまたいで低コストで生産できる体制を築いた。
今回は米国シフトの流れが強まると判断している。受託生産大手の広達電脳(クアンタ)は20年ごろまでの3年間で、米国でのサーバーの生産能力を3倍に引き上げる計画。工場の大半を中国に構えるが、主要顧客の米グーグル、米フェイスブックが中国産を調達しにくくなる事態に備える。
鴻海は100億ドル(1兆1千億円)を投じ、中西部ウィスコンシン州に液晶パネル・テレビ工場を建設する計画。さらに7月上旬には、郭台銘(テリー・ゴウ)董事長が米シリコンバレーで講演し、製造効率化に生かす人工知能(AI)の研究開発子会社を設立すると表明した。
素材では、台湾塑膠工業(台湾プラスチック)グループが20年にも、南部ルイジアナ州で約94億ドルを投じ、エチレンプラントを着工。現地産のシェールガスを原料に、低コスト生産を目指す。
台湾の経済部(経済省)によると、17年の台湾企業の対米投資(認可ベース)は前年比2.6倍の8億ドル強だった。絶対額は中国向けの約10分の1だが、「貿易戦争が激化すれば米生産移転はさらに加速する」(台湾経済研究院の邱達生研究員)との見方が広がる。
(台北=伊原健作)