台湾に中国製ワクチンを使用させようと画策する中国の手口  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2021年6月2日】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付したことをお断りします。

◆中国の妨害で台湾政府が入手できなかったワクチンを郭台銘が入手できたワケ

 台湾のワクチン購入について、蔡英文総統が中国に妨害されて停滞していると公表し、5月28日には条件付きで地方政府や企業によるワクチン輸入を認めるとしていましたが、31日には一転して「中央政府が直接メーカーと契約、分配するという原則を守らねばならない」と方針を転換しました。

 ワクチンの配送が特殊であることと、安全が最優先されること、効率的かつ公平にワクチンを入手できるようにするために、政府が主導して購入することにしたようです。

 しかし、この決定が下された直後、鴻海精密工業の創業者で、2020年の総統選挙に向けて国民党の予備選候補者でもあった郭台銘(テリー・ゴウ)は、ドイツのビオンテック社のワクチン500万回分を独自に調達するために動いていたとして、台湾当局に輸入の許可を申請しました。すでにビオンテック側とは話がついているとしています。入手したワクチンは、すべて台湾市民に使ってもらいたいと表明しています。

 鴻海は5月23日、台北市と新北市で新型コロナウイルスの感染が急拡大しているため、両拠点で勤務している従業員と両市に居住しその他の県市に勤務している従業員を全て在宅勤務にすると発表していました。

 台湾の製造業では、ファウンドリー(半導体の受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)やEMS大手の和碩聯合科技(ペガトロン)、同業大手の緯創資訊(ウィストロン)などで従業員の感染が確認されていることを受けての対処でしょう。

 こうした流れから、郭台銘はワクチンの確保に動いたということなのでしょうが、ドイツのビオンテック社のワクチンは、中国の介入によって台湾政府が購入を断念したものでした。郭台銘は、個人的に直接ビオンテック社と交渉し、ワクチン購入の契約を勝ち取ったと報道されています。

 台湾政府が妨害されて手に入れられなかったものをなぜ郭台銘は手に入れることができたのでしょうか。中国は、台湾政府の行動には介入するけれど、台湾の一民間人の行動には手を出さないということでしょうか。あるいは「親中派」といわれる郭台銘となにかの取引をしたのでしょうか。

 実はビオンテックのワクチンは、中国でもつくられています。中国製薬大手の上海復星医薬集団(フォースン・ファーマ)は、2020年3月13日にビオンテックとライセンス契約を締結し、中国本土、香港、マカオ、台湾でビオンテックのmRNAワクチンを独占的に生産・販売する権利を取得しているのです。

 以前より鴻海は上海復星に打診することを検討しており、この分を入手したのではないかと思われます。一方、台湾が購入しようとして中国に妨害されたのは、ドイツの工場でつくられたものでした。ライセンス生産でも「中国製ワクチン」は信用できないからです。

◆ワクチンを「政治的な利益をはかる道具」に成り下げているのは中国ではないか!

 台湾では中国製ワクチンの使用が禁止されています。しかし野党の国民党は、この上海復星による「中国製」ビオンテックワクチンを含め、中国製ワクチンを早く承認すべきだと蔡英文政権に迫っています。しかし、台湾人ならだれも中国製ワクチンを使いたいと思わないでしょう。郭台銘は、この中国産のビオンテックワクチンを台湾に押し付けようとしている可能性があります。

 一方、台湾へのワクチン提供を検討していることを発表した日本政府も、その方向で話を詰めている最中です。しかし、日本政府のこの発表に対して、中国は次のように言っています。以下、報道を一部引用します。

<中国外務省の汪文斌報道官は31日の記者会見で『感染対策の名を借りて政治ショーを行い、中国の内政に干渉することに断固反対する』と述べ、強く反発しました。

 そして日本が自国のワクチンを十分に確保できていない中で台湾への提供を検討することは台湾を含む多くのメディアや人々から疑問視されているとし『医療支援は命を救うという初心に戻るべきであり、政治的な利益をはかる道具に成り下がってはならない』と述べ、日本側の対応をけん制しました。

 また、汪報道官は、台湾の蔡英文総統が海外の製薬会社からのワクチンの調達が中国の妨害で難しくなっていると述べたことについて『われわれは最大限の努力で支援しようとしているが、民進党当局が中国製のワクチンを阻止している』と反論しました。>

 これは一体何の冗談でしょうか。ワクチンを、「政治的な利益をはかる道具」に成り下げているのは、他でもない中国です。前回もこのメルマガで書きましたが、ビオンテック社のワクチン(ドイツの工場でつくられたもの)購入を阻止する一方で、中国製のワクチンを使わなければ台湾市民の命はないと脅すは、ヤクザのやり方です。

◆自民党外交部会・外交調査会が台湾へのワクチン提供を政府に提言

 そんななか、以下のような報道がありました。以下、報道を引用します。

<中国による台湾への軍事的圧力が増す中、自民党の外交部会などは台湾有事に備えて同盟国との具体的な連携のシミュレーションや現地在住の日本人の退避方法などを検討するよう求める提言を取りまとめました。

 自民党の外交部会や外交調査会は中国による台湾への軍事的経済的圧力が苛烈さを増しているとして、政府に対応を求める提言を取りまとめました。

 それによりますと中国による台湾への侵攻は日本の安全保障に直結する事態だと指摘し、台湾有事に備えて同盟国と具体的な連携のシミュレーションを行うとともに現地に在住する日本人の退避方法などに万全を期すよう求めています。

 また台湾との関係強化に向けて双方の閣僚や中央省庁職員の往来をより活発化させるための施策や日本が確保した新型コロナウイルスのワクチンの提供、それに再生可能エネルギーなど新興技術に関する相互協力を検討すべきだとしています。

 このほか台湾の国際的な枠組みへの加入は日本の国益や安全にもかなうとして、台湾のWHO=世界保健機関の年次総会への参加や、ICAO=国際民間航空機関への加盟などを日本が主導的に進めるよう求めています。>

 自民党がこのような提言をするとは、少し驚きました。やはり世界からの追い風は台湾に吹いているようです。中国がいくらアフリカの貧しい国々を、金銭外交で無理やり味方につけても、それらの国々には世界を動かす力はありません。一方、世界を動かす力のある国々は、中国の身勝手さにはうんざりしています。

 台湾では、「テレグラム」というアプリを使った中国からの悪質なフェイクニュース流れてきているというニュースがありました。台湾を混乱に陥れるためのフェイクニュースです。「テレグラム」というアプリは、発信者が確定しにくく、発信者が設けた期限を過ぎれば投稿は自動的に削除され、その先を追うことが難しいことで知られています。

 ただ、発信の仕方があまりにお粗末なため、中国からだとすぐにわかるようです。まず、繁体字ではなく簡体字で書かれていること。さらに、中国大陸での言葉使いが混ざっていることなどです。

 このようなことをして、中国政府からいくらもらえるのでしょうか。また、このようなことばかりしている中国政府は、自分たちのやっていることがばかばかしくならないのでしょうか。

 まあ、それも結果的にはよかったのかもしれません。媚中派が多くいる自民党に、有事に備えて台湾と手を組もうと思わせてくれたのですから。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。