ビル・ガーツ氏は、台湾外交筋の話として「幅百数十キロの海峡の中間線に戦闘機を何度も緊急発進させることは、装備が老朽化した台湾空軍にとって大きな負担となる」ことを紹介しつつ、この携行式地対空ミサイル「スティンガー」のミサイル艇配備は「新航空路周辺の空域を防衛する能力を持つことを中国に示すことができる」と指摘、戦闘機に替わり得る有効な防衛能力を備えると解説している。
台湾は国防の基本を馬英九政権時代の「防衛固守 有効嚇阻」においていたが、蔡英文政権では「防衛固守 重層嚇阻」に変え、これまでの水際で叩く方針から重層、つまり洋上や敵地攻撃で叩く方針に変更したという。今回の携行式地対空ミサイル「スティンガー」250基はそれを証しているようだ。
—————————————————————————————–米国防総省、台湾にスティンガー250基売却へ ビル・ガーツ(ワシントン・タイムズ安保専門コラムニスト)【Viewpoint「ワシントン発 ビル・ガーツの眼」:2018年2月2日】
中国が台湾海峡の中台中間線に沿う航空路の便を急増させる決定を下したことで台湾との間の緊張が高まる中、米国防総省は、台湾軍に携行式地対空ミサイル、スティンガーを売却する準備を進めている。
◆中台中間線空域を防衛
台湾国防省は1月22日、年内にスティンガー約250基を受領することを発表した。スティンガー売却は、2015年に承認された4億5300万ドルの兵器供与計画の一部。この計画で、魚雷の延命計画、スタンダート・ミサイル2(SM2)のスペア部品も売却される。
国防総省は1月25日、台湾とポーランドへの兵器売却の一部として、スティンガーの製造元レイセオン社と9200万ドルの契約を交わしたことを明らかにした。この契約にスティンガーが含まれるかどうかは明確にされていない。
中国は、中台中間線沿いの民間航空路M503で民間定期便、軍用機の飛行を開始することを決定したばかりで、中台間の緊張が高まっている。
台湾の蔡英文総統は1月7日「懸案の航空路の運用を一方的に始めたことは、地域の安全を脅かす挑発行為だ」と強く反発した。
台湾外交筋は、新航空路の使用について、民間機が飛行するたびに台湾軍機を緊急発進させて、軍備を浪費させる狙いだと指摘した。
◆対空ミサイル、スティンガー
台湾は反対の理由を公式には、航空路がすでに混雑しており、増便は危険だからとしている。しかし、台湾外交筋によると、実際の理由は、中国が、軍事行動には至らない抑圧と工作で敵勢力を操ろうとする「シャープパワー」を駆使して、台湾に圧力をかけようとしていることにあるという。
台湾外交筋によると、幅百数十キロの海峡の中間線に戦闘機を何度も緊急発進させることは、装備が老朽化した台湾空軍にとって大きな負担となる。
台湾は、新型のF16戦闘機または、最新のF35戦闘機を導入し、空軍力を強化することを望んでいる。米国防総省は最新の年次報告で、中台の軍事バランスは、台湾対岸へのミサイル、空軍の配備によって中国が優勢と指摘した。
米国務省のジャスティン・ヒギンズ報道官は、中国が台湾と協議せず、航空路の使用を変更したことについて、「海峡の現状を変更する一方的な行動には、どちらからのものであれ、反対する」と懸念を表明した。
台湾国防筋によると、スティンガーは、海軍の光華6型ミサイル艇、沱江級コルベットに配備される。これらの艦艇にスティンガーが配備されれば、新航空路周辺の空域を防衛する能力を持つことを中国に示すことができる。
航空路M503は、主に中国の民間機が使用しているが、軍用機も使用しているため、飛行する航空機が誤って脅威と見なされる危険性がある。
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ビル・ガーツ(Bill Gertz)米紙ワシントン・タイムズ(WT)の国防担当記者として、これまでにスクープ記事を多数執筆。現在は米保守系ニュースサイト、ワシントン・フリー・ビーコンの上級エディター。WT安保専門コラムニスト。著書に『iWar―情報化時代の戦争と平和』(iWar.com)、『誰がテポドン開発を許したか』(文藝春秋社刊)など。