加藤勝信・官房長官の無慈悲な発言と岸信夫・防衛大臣の心強い発言

 加藤勝信・官房長官は1月25日、1月23日に米国国務省が台湾に関する立場について「われわれは北京に対し、台湾への軍事・外交・経済的圧力を停止し、台湾の民主的に選ばれた代表者と有意義な対話を行うことを要請する」という声明を発表したことに対し、「コメントは控えたいが、台湾を巡る問題は当事者間の直接の対話による平和的な解決を期待する」と表明した。

 中国寄りと見られているバイデン政権が「米国の台湾への関与は盤石であり、台湾海峡の両岸や地域の平和と安定の維持に貢献していく」と表明したにもかかわらず、当事者間の直接の対話で解決をと述べるに止まったのには落胆させられた。

 一昨年3月、台湾の蔡英文総統が日本に対して初めて安全保障対話を求め「われわれは多くの面で日本と同じ安全保障上の脅威に直面している。特にわれわれが属している東アジア地域には多くの安全保障上の脅威の発生源があり、それが台湾、そして同時に日本に衝撃を与えるだろう。だから、台湾と日本の間の安全保障は実務上の協力を極めて必要としている」と述べた。

 しかし、これに対して当時の菅義偉・内閣官房長官も河野太郎・防衛大臣も「1972年の日中共同声明にあるとおり、日本と台湾との間では、非政府間の実務関係を維持していくのが日本政府の立場であります。そうした発言は承知しておりますが、いずれにしても政府としては、いま申し上げた立場に基づいて適切に対応してゆきたい」と答え、中国に遠慮するような発言に止まった。

 確かに、日本は台湾に関して「非政府間の実務関係」として維持するという基本的立場を取っているが、2016年5月20日に出された安倍晋三総理の「答弁書」では「重要なパートナーである台湾との間においてこのような実務関係が着実に発展していく」よう努める立場も表明しているのだ。

 台湾が何度も中国との対話を呼びかけているにもかかわらず、中国が応えない状況にある。この状況で「当事者間の直接の対話による平和的な解決を期待する」と、紋切り型のように述べた加藤官房長官の発言は無慈悲に響く。台湾側は「またか」との思いで受け止めていることだろう。

 安全保障問題は防衛の専門家でなければ進められない実務だ。その実務を台湾との間でスムーズに進められるようシステムの再構築が必要だ。すでに岸信夫・防衛大臣は2020年9月の大臣就任にさかのぼること数ヵ月前、「日台の安保対話はぜひ進めてゆくべき」「日米台で安保対話ができるようにしてゆくべき」(月刊「正論」2020年1月増刊号)と述べている。大臣就任以前とは言え心強い発言だ。そのような積極的な考えを持つ岸防衛大臣の手腕に期待したい。

—————————————————————————————–台湾問題「直接の対話を」 加藤官房長官、日本政府の従来の立場示す【中央通信社:2020年1月25日】

(台北中央社)加藤勝信官房長官は25日午後の記者会見で、米国務省が台湾への圧力停止を中国に求める声明を発表したことについて、「台湾を巡る問題については、両岸(台湾と中国)当事者間の直接の対話により平和的に解決されることを期待する」と日本政府の従来通りの立場を示した。

 また、台湾の防空識別圏に23、24日の2日連続で中国人民解放軍の軍用機10機以上が進入したことに関して、「中国は海上・航空戦力による海空域における活動を急速に拡大、活発化させている」と言及した上で、日本政府として「動向を注視していきたい」と述べた。

 米国務省のプライス報道官は23日、中国が台湾を含む隣人に威嚇を絶えず試みていると指摘し、北京に対して「台湾への軍事、外交、経済的圧力を停止し、民主的に選ばれた台湾の代表者と有意義な対話を行うよう促す」と表明した。

中国の軍用機は23日に延べ13機、24日には延べ15 機が台湾の防空識別圏に進入した。

(編集:名切千絵)

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