本交流協会台北事務所代表(駐台湾大使に相当)をつとめられた。
この間に、日台関係はめざましい伸展を遂げた。台湾で日本のナショナルデーである
天皇誕生日レセプションの開催、台湾人への叙勲、2004年12月の李登輝元総統の来日実
現、来日台湾人へのノービザ実現など、数え上げれば切がない。
台湾高座会の大会にも赴任早々の2002年10月に出席しており、このような草の根交流
にも積極的だった。
帰国後は「一私人として日台友好関係の促進にお役に立てたら」と、真美子夫人(猪
木正道氏三女)ともども本会にご入会いただいた。入会は李登輝元総統との約束だった
という。機関誌『日台共栄』のインタビューを受けていただき、台湾研究フォーラムで
も講演していただいた。神奈川李登輝友の会の講演会にも、ご夫妻で出席していただい
たことがあった。
その内田大使が昨年の7月29日、多発性骨癌のため亡くなられた。69歳だった。1993
年(平成5年)に前立腺癌の手術を受けていたが、台湾大使を引き受ける直前に再発し、
しかし治療よりも大使を選んで赴任したという。
一周忌を済ませた本年9月、真美子夫人が遺稿集『ボク』を私家版で出された。表紙
の、屈託のない満面の笑みをたたえた内田大使の写真がとても印象的だ。
全9章立てで、第2章の「バラード ボクの歩んだ道」は、「洒落男」のメロディーに
乗せて歌えるように、幼少時代から入院時代までを作詞している。台湾大使時代は「特
に最後の1年 ボクは痛みを抱え 真美子の“社交”に頼りつつ なんとか任務を果た
した」とつづる。
イスラエル、シンガポール、カナダの各大使時代に行った講演や外務省への報告要点
なども収録されていて、読み応えがある。
特にグッときたのは、最終章第9章の「ボクの短歌もどき集」と、真美子夫人の「あ
とがき」にあたる「もう一度あなたと歩きたい」だ。
「ボクの短歌もどき集」にはイスラエル大使時代から台湾大使時代まで、真美子夫人
の作品をまぶして掲載されている。歌でウソはつけない、というのが僕の持論だが、内
田大使の歌にはその人柄など人格のすべてが現れているように思った。
台湾大使時代の歌にどうしても目を引かれ、次のような歌に心を惹かれた。
新築の 台中校でも 世話になり 李登輝抜きに 語れぬ日台
台湾の 南の端の 元旦は テレビの陛下に 頭を垂れる
そして、「台湾を去るに際して」との詞書のある4首の最後が次の歌だ。
神様に もひとつ命 賜らば 繰り返したし 我が人生
真美子夫人の「もう一度あなたと歩きたい」は、夫に宛てた手紙になっている。この
中に「あなたが一番嫌いだった言葉は『前例がありません』。よく口にしていた言葉が
『ドアは叩けば開けられる』でしたね」とつづられている。内田大使の勇気の源泉を垣
間見た思いだった。
最後に「神様がもしひとつだけ私の願いをかなえて下さるならば、この住みなれた奥
沢の周辺をもう一度あなたとゆっくり歩きたい」と述べ、「これが、私の願い続ける最
高の夢なのですから」と締めくくられている。
私家版の遺稿集ゆえ、一般に読むことはできないのが残念だが、このような充実した
内容の遺稿集はめったにお目にかかれない逸作だ。改めて内田大使の事跡に思いを馳せ
るとともに、御霊安かれと祈らずにはいられなかった。
なお、内田大使は亡くなる1年前に『大丈夫か、日台関係−「台湾大使」の本音録』
(産経新聞出版)から出版している。今でもその内容は色あせていない。台湾問題にか
かわる人々にとっては必読の書だ。ぜひお奨めしたい。
(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)
■内田勝久著『大丈夫か、日台関係−「台湾大使」の本音録』
http://www.sankei-books.co.jp/books/title/4902970406.html
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