今日から台湾大地震を描いた台湾映画「生命(いのち)」がロードショー

東京・東中野の「ポレポレ東中野」で約1カ月上映、大阪は2月26日から

 去る1月14日、台湾大地震のその後を追いかけたドキュメンタリー映画「生命(
いのち)」の試写会が行われることを聞いて、会場となった新宿南口のタカシマ
ヤ・タイムズスクエアビルにある紀伊國屋サザンシアターへ見に行った。本会理
事の謝雅梅さんや薛格芳さんたち留学生も一緒だった。
 1999年(平成11年)9月21日午前1時47分、マグニチュード7・3の大地震が台湾
を襲った。震源は台湾中部の南投県だった。被害は台北をはじめとする全土に及
んだが、特に南投県と近くの台中県の被害は甚大だった。地震による死者は約2,500
人、南投県と台中県だけでその80%の2,000人を超した。全壊した家屋は5万個に
も及んだ。
 当時、総統だった李登輝さんの元には報告が次々と寄せられていた。その日の
朝、李登輝さんは執務室に向う車の中で、家屋が倒壊し住民が苦しんでいる被災
地の情景を思い浮かべ、なんと執務室には向わず松山空港へ向い、午前10時前に
南投県の南投市に駆けつけたのだった。
 当時、台湾研究フォーラムの代表だった私は、メンバーとともに義捐金募集の
ために街頭に立ったことを思い出す。留学生たちも手伝ってくれた。「台湾は世
界一の親日国」と書いたポスターを募金箱に貼り付け、池袋駅頭に立って大声で
呼びかけると、子供から大人までいろいろな人が応じてくれた。「日本はまだま
だ捨てたものじゃない」というのが、当時の正直な感想だった。その思いはいま
だ変わらない。
 それから6年が経つ。台湾の大地震はまだ日本人の記憶に残っているのだろう
か。平成7年(1995年)の阪神淡路大震災、昨年10月の新潟中越地震を体験して
いる日本人にとって、この映画「生命」はどう映るのだろうか。そんな思いで試
写会に臨んだ。
 映画の舞台は南投県だった。國姓郷九[イ分]二山は地震により崩れ落ち、そ
の裾野に住む人々は一瞬にして土砂に呑み込まれた。映画は、変わり果てたその
山に通い続け、来る日も来る日も土砂に埋もれた家族を探す7人4組の遺族の、
当時からその後の3年間を追いかけたものだ。
 父母を亡くした姉妹、家族を亡くした夫婦、母親と子供を亡くした夫婦、家族
を亡くした娘の、それぞれの人生が重層的に描き出される。突然、肉親をなくし
た喪失感にさいなまれる遺族の姿をカメラは静かに追う。遺族は訴える相手を持
たない。喪失感だけが色濃く残る。
 そこに、老人ホームにいてすっかり気力を失った呉乙峰監督の実の父親のシー
ンが何度も差し挟まれる。ドキュメントならではの手法である。呉乙峰監督も肉
親を喪失しつつあったのだ。しかし、父親を元気づけられない。その呉監督が遺
族のその後を撮り続けた。やがて夫婦に子供が生まれ、姉妹の妹の方にも子供が
生まれる。「生命」というタイトルの所以だ。サブタイトルは「希望の贈り物」
である。
 「父親が亡くなったときのことを思い出しながら観ていました」と感想を洩ら
された方がいた。そういう体験がなくても、この映画は十分共感し追体験できる
。台湾大地震が生み出した、まさに「生命」といってよい出色のドキュメンタリ
ー映画である。

 試写会終了後、呉乙峰監督が挨拶に立ち、この映画の撮影の様子や、映画撮影
後の7人4組の遺族の様子を説明してくれた。どこかで聞いたような低音の声に
、映画でナレーターの一人が呉監督自身だったことを知った。
 驚かされたのは、なんとそこに息子2人を亡くした夫婦が登場したことだ。さ
らに驚かされたのは、映画では出てこなかったが、この夫婦には子供が生まれて
いて、その三歳の女の子が一緒に登場したことだった。
 まるで映画の続きを観ているような奇妙な感覚だった。夫婦の明るい笑顔と
いい、女の子が司会者にまとわりつく光景は、ラストシーンのようでとても印象
的だった。

 このドキュメンタリー映画「生命(いのち)−希望の贈り物」は、東京は今日か
らロードショーが始まった。大阪は2月26日から第七藝術劇場にてロードショー
が始まる。
 因みに、「記録映画の旗手」呉乙峰監督のこの作品は、一昨年の山形国際ドキ
ュメンタリー映画祭2003で優秀賞を受賞し、同年のナント三大陸映画祭で観客賞
している。

               メールマガジン「日台共栄」編集長 柚原正敬


■上 映 館  ぽれぽれ東中野
       東京都中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル地下
       (TEL 03-3371-0088)
       【交通】JR 東中野駅 西口 徒歩2分
           都営大江戸線 東中野駅 A1出口 徒歩3分
■上映時間  11:00 14:00 17:00 20:00
■入 場 料  【当日】一般:1,800円、学生:1,500円 【前売】1,500円
■チケット  劇場窓口、都内プレイガイド、チケットぴあ(Pコード:473-928)



投稿日

カテゴリー:

投稿者: