今でも台湾で歌われる「仰げば尊し」と「蛍の光」  喜早 天海(台日交流聯誼会)

【メールマガジン「遥かなり台湾」:2003年2月23日(第29号)】

 2月、3月は日本では卒業式のシーズンで、「仰げば尊し」と「蛍の光」の歌は卒業式の
定番の歌になっていました。(注:台湾では新学期は9月からなので夏休みの前の6月が卒
業の時期です。)

 でも、台湾ではいまなお学校によっては卒業式に──「仰げば尊し」は「畢業歌」(畢
業は卒業の意味)として、「蛍の光」は「驪歌」(りか)と題され──-歌われているので
す。中国語の歌詞で聞くこれらの歌はなかなかグーですよ。

 以前、台中会(台日交流聯誼会)の会合で、台湾の人たちから「中国語」でこの2曲を歌
ってもらったらとても気に入ってアンコールしてまた歌ってもらったのです。日本と台湾
が同じ曲を歌っていたなんて思いも寄らなかったでしょう? 本当に台湾と日本とは密接
な関係があるんですよね。

 台湾の人たちは「蛍の光」の曲を聞くと「悲しくなって涙が出てくる。」と言う人が少
なくありません。その人たちにとって、この曲は単に卒業式の時の歌ではないのです。ぼ
くは、「蛍の光」と言えば、卒業式に歌われる歌だとばかり思っていました。でも、ここ
台湾では学校だけでなく、葬式の時も別れの曲として「星影のワルツ」などと共にこの曲
が演奏されるのです。だから、この曲を聴いて涙が出てくるのは、失った肉親に最後の別
れを告げた告別式の時のことを真っ先に思い起こしたからなのです。よく考えてみると、
人生における卒業ですからこの歌を演奏しても不思議じゃないですよね。

 ところで、この「蛍の光」に4番までの歌詞があったのを知っていますか。4番が「台湾
のはても樺太も」となっていたのです。しかし昭和20年8月の終戦により、その講和条約で
台湾及び樺太・千島領有を放棄し、3番と4番は歌われなくなったのです。では(その歌わ
れなくなった部分を含めた)全部の歌詞を紹介しましょう。

1 蛍の光 窓の雪
  書(ふみ)よむ月日 かさねつつ
  いつしか年も すぎのとを
  あけてぞ今朝は 別れゆく

2 とまるも行くも 限りとて
  かたみにおもふ ちよろづの
  心のはしを 人ごとに
  幸(さき)くとばかり うたふなり

3 つくしのきはみ みちの奥
  海山とほく へだつとも
  その真心は へだてなく
  ひとつにつくせ 国のため

4 台湾のはても 樺太も
  やしまのうちの まもりなり
  いたらん国に いくさをしく
  つとめよわがせ つつがなく

 卒業式と言えば日本と違う点は台湾の卒業式は暗いイメージがなく、「明るい」という
言葉がピッタリ。以前、商業高校で日本語を教えていた時、卒業式の日に教え子が言った
言葉がいまも強烈に残っています。「先生、有難うございました。(私たち今日で卒業だ
から)もう日本語使う機会がないので先生に日本語全部返しますよ。」

 その言葉がいつまでも残っていて「いままで一生懸命日本語を勉強しても、(これまで
勉強に費やしたお金や時間や努力を)途中で放棄するのはもったいないじゃないの」と日
本語の学生さん(社会人)に呼びかけ、日本語を話す機会と場や日本語を話す相手を提供
するからと、言って「日本語聯誼会(台中会の前身)」を結成したのでした。


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