九二共識見直しの江啓臣・中国国民党新主席に祝電を打たなかった中国

 2009年7月、馬英九氏の中国国民党主席に就任に当り、胡錦濤・総書記は祝電を送って祝意を表し、2013年7月に馬英九氏が主席に再選されて就任したときも、中国共産党の習近平・総書記は祝電を送っている。習近平氏は呉敦義氏の主席選挙当選時にも祝電を送っている。

 しかし、習近平氏は、3月9日に補選で当選して中国国民党主席に就いた江啓臣・主席には祝電を送らなかった。李登輝氏が中国国民党主席時代から、中国共産党は中国国民党主席当選者に祝電を送ってきていたというから、極めて異例というべきだ。

 本誌でも紹介したように、主席補選において、「一つの中国」を支えてきた「92年コンセンサス」(九二共識)」を時代遅れだと批判して当選した江啓臣氏への不信感や不快感の表れとする見方が強い。

 中国が不快感を示すのは中国の意向に沿わないからで、李登輝元総統の来日や日本台湾交流協会台北事務所の天皇誕生日祝賀レセプション開催など、中国の意向に沿わないことがまっとうな措置だった事例には事欠かない。

 中国と台湾の関係より党の再建を優先する江啓臣氏の考え方はまっとうだ。だから中国国民党員も賛成票を投じたのだ。それに異を唱える中国側がおかしいのは、誰が見ても明らかだろう。国民党が台湾人のための政党となることを大いに期待したい。

—————————————————————————————–対中関係より「信頼回復を」 再建急ぐ国民党、若手新党首就任【中央通信社:2020年3月9日】https://japan.cna.com.tw/news/apol/202003090007.aspx

(台北中央社)最大野党・国民党の主席(党首)に9日、江啓臣氏(48)が就任した。1月の総統・立法委員選で大敗を喫した同党。若手の江氏は中国との関係より「台湾社会での信頼回復が先だ」と党の再建を優先する考えを強調した。

 台湾では昨年、香港で広がりを見せた抗議デモの影響で反中ムードが高まり、1月の総統選では対中強硬路線を打ち出す民進党の蔡英文総統が圧勝し、議会選では同党が単独過半数を維持。対中融和路線を取ってきた国民党は惨敗した。

 「1つの中国」を前提とした「92年コンセンサス」を支持してきた国民党。党勢立て直しが急務となる中、江氏は92年コンセンサスの見直しに前向きな姿勢を示し、今月7日の新主席を決める選挙で、ベテランのカク龍斌前副主席相手に大差で勝利を収めた。(カク=赤におおざと)

 同党の新主席には中国共産党の総書記から祝電が送られるのが慣例となっていたが、江氏に習近平氏からの祝電は寄せられなかった。これに対しさまざまな見方が出ており、ある国民党員は、習氏は祝電を送らないことで江氏の出方をうかがっていると推測する。

 この党員は一方で、市民からの支持を取り戻してから両岸(台湾と中国)間交流について考えることが重要だと江氏に同調。でなければ国民党は「親中」のレッテルを貼られ続けるだけだと危機感を示した。

 江氏は就任のあいさつで92年コンセンサスに言及せず、党首席のあいさつとしては異例となった。両岸政策について「国内外の情勢が急速に変わる中で、両岸間にかつて存在していた相互信頼の基礎は大きな挑戦に面しており、再建の必要がある」と指摘しつつ、党内改革を最優先する姿勢を表明した。

 だが、江氏の就任式典に出席した党重鎮の馬英九前総統は党内改革の必要性に賛同する一方、「1つの中国」の解釈は両岸で異なるとする92年コンセンサスを堅持する立場を改めて示した。

(劉冠廷/編集:楊千慧)

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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