中華民族の夢と台湾の悲哀  浅野 和生(平成国際大学教授)

浅野 和生 平成国際大学教授 中華民族の夢と台湾の悲哀―完全統一目指す習主席 抹消される自由・民主・自立―【世界日報「Viewpoint」:2017年11月7日】

 第19回中国共産党大会の政治報告(10月18日)で習近平は、台湾海峡の将来について、香港、マカオと台湾とを同列に置く「港澳台工作」の枠組みで論じた。すなわち、香港、マカオは「一国二制度」で世界が認める成功を収めたと自賛し、これが長期にわたって安定と繁栄を保持する最善の制度であると述べるとともに、台湾も「一国二制度」で祖国の完全統一を実現すると述べた。さらに、この「祖国の完全統一」は中華民族の偉大な復興の必然の要求であると明言した。

 つまり、習近平は、自ら掲げる中華民族の偉大な復興、すなわち近代以来の中華民族の偉大な夢を実現するために、台湾を吸収しなければならないと宣言しているのである。

 従って、中国が掲げる、台湾海峡両岸関係の平和的発展の終着点は、台湾併合以外にない。そこに至る過程として、台湾に対して、「一つの中国」の受け入れを求め、「1992年のコンセンサス」を認めれば、両岸の「同胞」の課題を双方の話し合いで解決できると言ったのである。

 中国共産党によれば、両岸「同胞」は運命を共にする「骨肉兄弟」であり、血は水よりも濃い家族である。習近平は、「両岸は一家」という理念で、台湾の現有の社会制度と生活方式を尊重し、経済交流を互利互恵で進め、台湾の「同胞」には、大陸の「同胞」と同等の待遇を提供すると述べた。

 しかし、同じく「同胞」であるはずの香港の現実から、中国による「社会制度と生活方式の尊重」が、実は「大陸の同胞と同等の待遇」に貶(おとし)められること、つまりは中国共産党の意のままに管理されることであることは明らかである。台湾の自由と民主、自主と自立は抹消されてしまう。

 一方で習近平は、国家主権と領土の完全維持を固く誓い、国家分裂の歴史的悲劇を繰り返すことは絶対に容認しないとし、いかなる形式の「台湾独立」の企図・謀略をも打ち砕く自信を持ち、いかなる人、組織、政党によるものでも、またいつ、いかなる形式のものでも、寸土といえども中国から分裂させることは決して許さない、と断言した。

 つまり、台湾が台湾人の台湾であり、一つの中国原則を認めないことを、習近平の中国は決して許さないのである。

 さて、これに対して、台湾の蔡英文総統は、10月26日の「両岸交流30年回顧と展望シンポジウム」で次のように回答した。

 開会の挨拶(あいさつ)の中で蔡英文は、30年前、国民党の蒋経国政権が親族訪問の形で台湾人の中国渡航を解禁するに先立って、民進党が中央常務委員会で「両岸の人民が故郷に帰って親族を尋ねることを制限すべきでない」と決議していたことを挙げて、民進党の中台関係政策は、「人民のため」が核心的理念であると説明した。当時、国共内戦のために大陸から台湾に渡り、そのまま年老いた軍人たちが、一党独裁の国民党政権に対して、故郷訪問を求める街頭デモを行ったことに、結党間もない野党・民進党が呼応したのである。

 また、習近平は両岸関係の平和と発展を推進し、両岸の経済協力と文化交流を進めると述べており、蔡英文も総統就任式以来、誠意をもって両岸関係の平和的安定と発展の推進を求めてきている。だから蔡英文は、一つの中国を認めた「92年のコンセンサス」ではなく、台湾海峡両岸の平和と安定および発展の維持こそが、中台間の最高のコンセンサスだと述べた。

 さらに、蔡英文は、自分の対中関係政策の原則は、中国に対する「善意は不変、承認は不変、対抗していた過去には戻らない、しかし圧力には屈伏しない」ことだと明言した。

 ところで、中国共産党は、今回の党大会で全く新しい段階に入ったというのだから、今こそ歴史の重荷を下ろして、善意に基づく対話で、中台人民の幸福をつくるべく、中台関係を改変すべき時ではないか。そこで蔡英文は習近平に、双方の指導者が打ち解け合い、政治的知恵をもって、中台双方の長期にわたる福祉を創造し、敵対関係と戦争の恐怖を永遠に取り去ろうではないか、と呼び掛けたのである。

 振り返ると、1996年に、台湾で初めて直接民選による総統選挙が行われた。その実現を前にした李登輝総統は、司馬遼太郎との対談で、17世紀のオランダ、その後の清朝、日本そして国民党の中華民国も、全て台湾にとっては外来政権であり、台湾人は常に支配されるだけで、自ら主役になることが無かった、それが台湾人に生まれた悲哀だと語った。しかし、この悲哀は96年の総統選挙で解消され、以来20年余り、政権交代を繰り返しながら、台湾では台湾人が主役となって自らの統治者を選出している。

 習近平は、国家分裂の歴史的悲劇を繰り返すことは絶対に容認しないと言い、中華民族の偉大な復興を謳(うた)うが、台湾人に言わせれば、それは中華人民共和国という新たな外来者の支配に外ならない。だから「圧力に屈服しない」蔡英文は、「一つの中国」原則を認める代わりに、新たな中台関係の平和と発展のために、善意の呼び掛けを続けるのである。

 東アジアの平和と安定のためにも、共産党一党独裁の中華人民共和国に、台湾人の悲哀を再現させてはならない。

              ◇     ◇     ◇

浅野和生(あさの・かずお)

1959年(昭和34年)、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、同大学大学院博士課程修了。関東学園大学講師、同大助教授、平成国際大学助教授などを経て、2004年、同大教授に就任。法学博士。2005年10月、日本版「台湾関係法」の私案として「日台関係基本法」を発表。

主な著書・共著に『大正デモクラシーと陸軍』(1994年3月)『君は台湾のたくましさを知っているか』(2000年9月)『日米同盟と台湾』(2003年11月)『馬英九政権の台湾と東アジア』(2008年12月)『台湾の歴史と日台関係』(2010年12月)など。

編著に『日台関係と日中関係』(2012年12月)『台湾民主化のかたち―李登輝総統から馬英九総統まで』(2013年12月)『親台論─日本と台湾を結ぶ心の絆』(2014年3月)『中華民国の台湾化と中国』(2014年12月)『1895-1945 日本統治下の台湾』(2015年12月)『民進党三十年と蔡英文政権』(2016年12月)など。

日本選挙学会理事、日本法政学会会理事、加須市行財改革推進協議会会長、日本李登輝友の会常務理事。日米台の安全保障等に関する研究会委員。


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