同じく行政院主計総処が11月29日に発表した今年の第3四半期(7〜9月)のGDP成長率は前年同期比2.99%で、堅調だという。
内需は前期の1.82ポイントから1.50ポイントに低下したものの、固定資本形成は、半導体メーカーや域内への回帰投資企業による設備投資の増加などにより前年同期比4.32%増、寄与度は1.02ポイントで、ジェトロの「ビジネス短信」(12月19日)は「主計総処は外需の特徴について、米中貿易摩擦による世界経済の不確実性や国際原材料価格の変動などの影響を受ける中で、情報通信機器や電子部品が域内生産回帰や季節要因の恩恵を受けたことが主な要因と説明」し「台湾企業の台湾回帰による生産拡大が輸出にプラスに寄与」していると解説している。
こうした台湾企業の台湾回帰、すなわち中国離れを反映し、中国で働く台湾人は40万4000人ほどで、5年連続で減少しているという。
総統選挙中の蔡英文総統は、各地の演説でさかんにこの好景気をアピールし、産経新聞外信部次長の矢板明夫記者は「台商回流!7千億元」と呪文のように繰り返し強調していると報じている。下記にその記事「矢板明夫の中国点描」をご紹介したい。
馬英九政権の2010年に台湾は中国と「中台経済協力枠組み協定」(ECFA:エクファ)を締結したが、総統府国策顧問をつとめた元第一銀行頭取で、当時、台日文化経済協会会長だった黄天麟氏から、何度も「台湾は中国から離れたらうまくゆく。中国に近づいたら呑み込まれる。中国との関係を断ち切りさえずれば、台湾は自由な経済体として飛躍することができる」とお聞きしたことを思い出した。
—————————————————————————————–中国離れがもたらす台湾の好景気【産経新聞「矢板明夫の中国点描」:2019年12月25日】https://special.sankei.com/a/international/article/20191225/0001.html
「台商回流!7千億元」
来年1月11日に行われる台湾の総統選挙を控え、台湾各地を飛び回る与党・民主進歩党の公認候補、現職の蔡英文総統が演説で、呪文のように繰り返し強調しているフレーズだ。
米中貿易戦争や中国の景気低迷などを理由に、最近、中国での生産拠点を台湾に戻す台湾企業(台商)が急増し、今年発生した台湾への回流投資案件の累計金額は7千億台湾元(約2兆5千億円)に達した。蔡氏はこの数字を政権が経済を活性化させた実績として、大きくアピールしている。
確かに今の台湾の経済は熱い。株式市場は連日上昇し、株価指数は17日、29年ぶりに1万2千を突破した。数年前に低迷していた不動産市場も、今年になってから再び上昇に転じはじめた。
台湾誌「今週刊」によれば、各地の工業団地に、中国から戻ってきた企業の入居申し込みが殺到し、キャンセル待ちの状態が続いている。高雄市西部にある楠梓工業団地では、余っている土地がなくなり、団地内にあったテニスコート、女子寮、消防署までも取り壊され、工場に改造されている。
台湾紙の経済担当記者によれば、台湾企業が中国から撤退する理由は主に3つある。米中貿易戦争に伴い関税が引き上げられ、対米輸出が壊滅的な打撃を受けた。中国国内の景気低迷に伴い、財政難に陥った各地方政府が台湾企業への優遇政策を縮小したことに加え、さまざまな名目で税金や寄付金を厳しく取り立てるようになった。それに、賃金高騰によるコスト増も重なったという。
しかし、いったん投資した資金を中国から回収することは容易なことではない。銀行の窓口でたらい回しにされ、さまざまな名目で多額な手数料をとられたあげく、台湾への送金は長期間にわたってできないケースも少なくないという。
台湾企業の経営者たちは、現金をビットコインなどの暗号資産や金塊にして中国から持ち出し、また、地下銀行を利用するなどして資金を台湾に戻しているという。法に抵触しかねないが、「中国の圧政から逃れるためなら仕方ない」と台湾当局はその辺を大目にみているという。
台湾企業が中国から撤退する際に、東南アジアへ移転する選択肢もあったが、台湾当局は、これらの企業を誘致するために、「台湾企業の帰郷を歓迎するプロジェクト」を立ち上げ、さまざまな優遇政策を発表した。土地取得や外国人労働者の雇用規制を緩和し、回流企業への融資の際に0・5%の金利引き下げを適用するほか、初年度と2年目は法人税も軽減する。7千億台湾元の回流は、こうした政策が奏功した現れだ。
ある民進党関係者は「昔なら中国と対峙(たいじ)すると、経済面で大きな打撃を受ける覚悟が必要だったが、今は逆となり、中国に巻き込まれない方がうまくいく」と話す。蔡氏が総統選の世論調査で相手候補を大きくリードしている背景には、中国離れによる好景気も大きな理由の一つとみられる。
経営不振で中国から一日も早く撤退したい日本企業も多くある。蔡政権の経験は日本にとって、参考になるところがたくさんありそうだ。(外信部次長)