ストップしたまま1カ月以上経ち、中国側がついに我慢できなくなり、台湾との航空、観光、海運、
郵政などの重要な議題について協議を停止したという。
今朝の産経新聞は、吉村剛史支局長の後任として6月1日付で赴任している田中靖人支局長が
「サービス貿易協定と並行して進めてきた、関税減免に関する『物品貿易協定』の交渉も日程が決
まらない状態」であり、「経済部(経産省)の事務次官は9日、台湾メディアに対し、物品貿易協
定の交渉中断を認めた上で、年内を目指していた締結は『ほぼ可能性がない』と述べた」と報じて
いる。
これは、中国お得意の恫喝外交だ。相手が弱いと見れば必ずこの手を使う。
馬英九政権下の2009年8月、台風による大水害が台湾を襲い700名近い死者を出した「八八水害」
と呼ばれる大参事が起こった。高雄県の小林村が土石流で水没して住民約400人が亡くなった。こ
のとき陳菊・高雄市長ら台湾南部の7つの県と市の首長が連名でダライ・ラマ法王の台湾訪問を招
請、台湾政府がダライ・ラマ法王へのビザ発給を発表するや、中国は「ダライは単純な宗教者では
なく、宗教の旗の下に国家分裂活動を進めている」として断固反対を表明する。表明するだけでな
く、台湾関係イベントへの要人出席を取り止め、高雄など台湾南部への観光客をストップした。
観光客も恫喝外交に使うのが中国の常套手段で、共産党独裁政権の為せる荒業だ。今回は実務協
議を停止してサービス貿易協定の審議を促そうという腹のようだ。
馬政権は果たしてどう対応するのか、馬英九総統が指導力と胆力を問われる場面がまた訪れた。
中国の恫喝外交に屈すれば「太陽花学運(ひまわり学生運動)」を支持した民意の反発を買うのは
必至だ。
中国大陸側が各種協議を中断・・・台湾当局、対策に「おおわらわ」
【Searchinaニュース:2014年6月9日】
台湾紙「経済日報」によると、中国大陸側はこのところ、台湾と進めてきた各種協議を中断して
いる。国民党による馬英九政権が2008年に発足してから初めて事態で、台湾当局は対策に「おおわ
らわ」の状態という。
台湾では、馬英九総統が大陸側とのサービス貿易協定の締結を強引に進めたとして、学生らが猛
反発。3月18日から4月10日まで、日本の国会に相当する立法院を占拠する異常事態になった。立法
院側(王金平立法院長)が、大陸側との協議を監視する法令を作ると約束したことで、学生らは立
法院占拠を解いた。
なお、王立法院長は馬英九総統と同じ国民党の所属だが、馬英九総統(党主席)と激しく対立
し、党籍剥奪問題をめぐって裁判で争っている(一審は王立法院長の勝訴で、党籍剥奪は認められ
ず)。
これまで大陸との各種協定については「外交ではない」との「中華民国としての建て前」にひき
ずられ、行政院(台湾政府)の決定に立法院が影響をもたらすことは難しかった。大陸側との協議
を監視する法令が成立すれば、行政院の動きは大きく制限される可能性がある。
大陸側は、航空、観光、海運、郵政などの重要な議題についても台湾側との協議を停止した。20
14年後半に「立法院における、台湾・大陸の協定を監視する法令と、サービス貿易協定の議事の進
み方を見て、協議を続けるかどうか改めて決定」との考えを示したという。
現在は、台湾と大陸を結ぶ航空便の増便、大陸からの旅客についての、台湾側の受け入れ人数
と、「台湾に滞在した後、別地域への移動」するのとの可否、大陸側における「台湾への自由旅行
を向止める地域の拡大」など、多くの協議が中断している。
台湾・立法院におけるサービス貿易協定の審議は、1カ月以上にわたりストップしたままであ
り、さまざまな分野における中国大陸側と台湾側の協議が再開されるめどは立っていない。
馬英九政権はこれまで、中国大陸との交流を強化することで、経済水準を維持しようと腐心して
きた。そのため、中国大陸との協議中断という事態を補完するために、さまざまな対策を取りつつ
あるという。
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◆解説◆
馬英九総統と王金平立法院長は、国民党が民進党に政権を奪われた時期から、一致団結して各選
挙戦を戦い抜き、政権奪回に成功させた「黄金のコンビ」だった。
不仲になったのは、王立法院長が国会運営において、野党である民進党の立場などをよく配慮し
たため、馬英九総統が「通したい法案がさっぱり通らない」とのいらだちを抑えられなくなったか
らだとされる。
王立法院長は、馬英九総統について「職権乱用をしてまでも、民進党を攻撃する。手段を選ばな
い」と批判的だった。
馬英九総統は本籍地が湖南省。両親が共産党勢力から逃れて脱出した香港で生まれ、直後に台湾
に移った。台湾で「外省人」と呼ばれる、共産党との戦いに敗れて台湾に逃れた国民党関係者や支
持者とその子孫のひとりだ。
王立法院長は、台湾南部の高雄市の出身。日本統治下の1941年生まれだ。日本が中国(当時は中
華民国)に引き渡す1945年以前からの台湾住民とその子孫を指す、「本省人」の一員ということに
なる。そのため、馬英九総統と王金平立法院長は「発想の出発点が、そもそも異なる」との指摘が
ある。
国民党は、「台湾は中国の一部。長期的な視野では大陸との統一を目指す。ただし共産党主導の
統一には反対」との立場だ。
ただし王立法院長は国民党による「台湾の地位問題についての理解」には必ずしも同調しておら
ず、「台湾独立も選択肢の1つ」と発言したことがある。馬総統は、「中華民国にとって」を基準
に判断しがちになるのに対し、王立法院長は「台湾にとって」が最優先と解釈することもできる。
台湾の総統には極めて大きな権限があるため、失政を招いても罷免は事実上、不可能とされる。
任期は4年間で、2期までが認められている。そのため、1期目には次の総統選があるために民意に
配慮するが、2期目には自らの考えに固執して暴走しかねず、その場合には歯止めが効かなくなる
との指摘がある。
(編集担当:如月隼人)