1月3日、ロシア、米国、中国、英国、フランスの核保有5ヵ国は「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならないことを確認する」ことなどを表明する共同声明を発表した。
時事通信は「核の使用が広範囲にわたる影響をもたらすと指摘。核兵器が存在する間は、その用途は『自衛目的、侵略防止、戦争回避』に限られるべきだと確認した」と伝えるとともに「核保有5大国が、戦争回避などを目的に共同声明を発表するのは異例」と報じている。
国連のグテレス事務総長は「今後の取り組みに関する詳細を期待している」と歓迎する声明を発表し、ロシア外務省はこの共同声明について、4日開幕予定だった核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせ、ロシアの主導で準備されたと表明したという。また、中国外務省も「5カ国の指導者が核兵器の問題について声明を発表するのは初めて」と意義を強調した(共同通信)とも伝えている。
ロシアや中国が絡んでいるとなると眉に唾をつけたくなる。
この共同声明は「核保有国間の戦争回避」を目的にしており、敵国が核保有国でないケースや通常兵器による侵攻などによる戦争回避のことではない。例えば、中国による台湾侵攻などを回避させようとする声明ではない。
事実、今朝の読売新聞は「中国軍の台湾への武力侵攻に向けた作戦準備は事実上、最終段階の上陸作戦に不可欠な強襲揚陸艦の配備増強に焦点が移っている模様だ」として、中国による台湾侵攻作戦準備は完成段階へ近づいたと報じている。
読売新聞が同時に掲載した「中国軍が対台湾の制海・制空力獲得か」の記事では、台湾国防部が想定する中国軍による台湾侵攻のプロセスは下記のような4段階だと説明し「プロセスの第3段階に向けて軍機の訓練を活発化させている模様だ」「今後、台湾本島への上陸作戦能力が備われば完成に近づく」と報じている。
〈1〉中国本土側からのミサイル攻撃〈2〉台湾の軍事施設を標的としたサイバー攻撃〈3〉米軍などの介入を阻むための制空・制海権の確保〈4〉上陸作戦で台湾本島制圧
◆中国軍が対台湾の制海・制空力獲得か、関係筋分析…侵攻作戦準備は完成段階へ https://www.yomiuri.co.jp/world/20220103-OYT1T50241/
台湾有事に関してはいろいろな観測記事や論考が発表されているが、台湾有事がありうることを前提として中国を抑止しようと働きかけているのが「自由で開かれたインド太平洋」戦略を掲げ「台湾海峡の平和と安定」を唱道してきた日本と米国だ。また、この戦略に賛同するオーストラリアやインド、英国、フランス、ドイツなどの国々だ。
また、太平洋への軍事的展開を図る中国を阻止してきたのが、「自由で開かれたインド太平洋」の要衝に位置する台湾だ。日本は台湾との安全保障連携を欠かしてはならない。
—————————————————————————————–中国「台湾上陸」作戦は最終段階へ…一部都市へ空爆・離島攻撃の可能性も【読売新聞:2022年1月4日】https://www.yomiuri.co.jp/world/20220104-OYT1T50030/
【北京=大木聖馬】中国軍の台湾への武力侵攻に向けた作戦準備は事実上、最終段階の上陸作戦に不可欠な強襲揚陸艦の配備増強に焦点が移っている模様だ。一方で、台湾で独立の動きが強まった際、武力侵攻の代わりに一部の都市に対する空爆や離島への攻撃といった「限定的攻撃」を行う可能性も指摘されている。
◆「演習」で集結
台湾国防部(国防省)が2021年12月にまとめた報告書が詳述した中国軍の侵攻プロセスは、中国側が演習の名目で軍を集結させる段階から始まる。ミサイルで台湾の防空陣地やレーダー、指揮所などを破壊し、サイバー攻撃で台湾の主力部隊の機能停止に成功した後、制海・制空権の確保に入る。沿岸部に部隊を展開し、西太平洋に艦隊を集結させて米軍などの介入を阻み、台湾に対する戦略的包囲網を形成する流れだ。
上陸作戦については、揚陸艦や輸送機を用いるものと想定されている。しかし、同報告書は、上陸行動はいまだに「(中国軍にとって)極めてリスクが高い」とする分析を示している。地形が複雑な台湾西岸からの上陸に欠かせない強襲揚陸艦は、21年4月に1隻目が就役したばかりだからだ。
報告書は、「現時点ではすべての部隊を一度に輸送できない」と指摘する。強襲揚陸艦は2隻目、3隻目が試験航行の段階に入っているとはいえ、訓練を重ねて効率的な運用ができるようになるまでにはさらに時間がかかるとみられる。
中国軍は、音速の5倍(マッハ5)以上で飛行する極超音速兵器の開発でも先行するなど、台湾が対処不能なミサイル攻撃能力を備えている。保有する軍艦艇は空母2隻に加え、駆逐艦、フリゲートなど台湾の3倍となる計約90隻だ。サイバー攻撃についても、中国軍が15年末に発足させた宇宙、サイバー、電磁波と情報戦を一元化する「戦略支援部隊」はすでに高度な能力を有している模様だ。
しかし、中国が台湾を武力で制圧しても、民主政治を享受してきた台湾住民が共産党体制の強権統治に反発する可性は高い。台湾住民の抵抗が激化してゲリラ戦に発展すれば、中国側は治安維持のために陸軍や武装警察部隊の長期駐留を余儀なくされかねない。軍事的コストが高まるばかりでなく、沈静化に手を焼けば、共産党政権の権威失墜にもつながりかねない。
習近平政権も、武力統一に向けた備えを進める一方で、中台統一はあくまで「平和統一」が優先であるとの立場は崩していない。
◆「懲罰」的行動
中国軍関係者は「平和統一が最優先でも、独立の動きには容赦しない」と語る。24年の台湾総統選で「独立」を掲げる新総統が誕生するなどした際に、習政権が「懲罰」的行動を取るとの観測も強まっている。
台湾の一部の都市への空爆、離島攻撃など一時的で限定的な軍事行動であれば、米国が紛争のエスカレーションを回避するため、軍事的報復措置をとらないともみられる。習国家主席としても、台湾に対する直接行動を取ったという歴史的業績ともなる。
1979年には、ベトナムが親中国のカンボジアに侵攻したため、当時の最高実力者のトウ小平が「懲罰」としてベトナム侵攻に踏み切った事例もある。この中越戦争当時とは比較にならない陸海空・ミサイル能力を備えた中国軍が、将来の本島制圧に向けた演習として、限定的軍事行動に踏み切る可能性も否定できない。
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