習近平指導部が、中国の歴史的な悲願である「台湾統一」実現に向け、改めて前のめりになっている。
台湾で民主的な直接選挙の結果、2016年5月に誕生した民主進歩党の蔡英文政権は、習指導部が要求する「一つの中国」の共通認識を拒んできた。中国は報復措置として、台湾が外交関係を結んでいたドミニカ共和国やエルサルバドルなど5カ国を、2年あまりで次々と「断交」に追い込み、急速に政治圧力を強めた。
台湾が欧州で唯一、外交関係をもつバチカンに、中国は次の照準を合わせる。
さらに懸念されているのは、11月24日に投開票される台北市長など22の首長選を含む統一地方選への中国の“介入”だ。20年1月の次期総統選の前哨戦と位置づけられており、与野党の攻防が熱を帯びている。
民進党筋は統一地方選をめぐり、「水面下の世論操作や資金供給を通じ、中国が台湾で巧みに、親中派の政党や政治家らを支援している」と語気を強めた。
民主社会の世論を誘導して選挙に影響を及ぼす構図は、11月6日の米中間選挙で「中国が介入を試みている」とトランプ大統領が批判した状況に似ている。
現在の台湾で親中派とされるのは、最大野党の中国国民党。かつては共産党と中国大陸で国共内戦を戦った相手だが、00年に政権を失って下野した後、経済関係拡大を狙い、親中派に宗旨変えした経緯がある。
習指導部が目の敵にする民進党の次期総統選での下野を狙って、「敵の敵は味方」とばかりに国民党を支援しても不思議はない。
一方、中国も政治的な日程が続々とやってくる。
中国は建国70周年を来年10月に迎えるが、国威発揚が求められる時期に対米貿易戦争の深刻化で景気が悪化すれば、習指導部への突き上げは大衆に加え、共産党内部からも激化する。
21年7月に共産党結党100周年、22年秋に5年に1度の党大会が開かれる。
本来なら習氏は2期10年の任期を終える22年秋に総書記、23年3月に国家主席を退任するはずだった。だが今年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で憲法が改正され、国家主席の任期制限が撤廃された。
前回17年の党大会で、習氏は建国100周年を迎える49年を念頭に「社会主義現代化強国」実現を掲げ、民主主義社会と対立する二極構造で覇権をめざす意志を明確にした。総書記を含め3期目も、権力を手放す考えがないことは明白だ。
ただ、毛沢東やトウ小平に比べ実績の乏しい習氏の基盤はなおも脆弱(ぜいじゃく)。対米関係も劣勢となれば、習指導部は権力維持へ、政治的な賭けに出ざるを得ない。そこに「台湾統一」は最も利用されやすい工作となる。
来月の統一地方選をテコに20年に台湾で親中派の政権を誕生させ、「一つの中国」に向けたトップ会談を演出すれば、22年以降の3期目を確実にしたい習氏の権力基盤は強固になる。習指導部はそんなシナリオを描いているのだろうか。
1949年に分断された共産国家の中国と民主社会の台湾。朝鮮半島と同じく東アジアに残された「冷戦構造」だ。国際社会は中台の動向も注視していかねばならない。(論説委員)