台湾関係のニュースを追っていると、どうしてこの国にできることが日本にできないのだろうと思われることがしばしばある。
例えば、ごく最近のことだと、3月25日から160人ほどの大型訪問団を率いて台湾を訪れていたチェコ共和国のマルケタ・ペカロワ・アダモワ下院議長は、29日に「国立台湾博物館とチェコの国立博物館の協力意向書や国防部(国防省)のシンクタンク、国防安全研究院(国防院)とチェコの研究機関の協力覚書、台湾とチェコの国会による友好声明などの調印を見届けた」(中央通信社)と報じられた。
チェコと台湾は国交がない。しかし、この訪問中に台湾とチェコは合計11件に及ぶ協力覚書と声明に署名している。11件の中には、台湾の国防安全研究院とチェコのプラハ国際関係研究所の「研究協力覚書」の締結や国会同士の友好声明への調印も含まれている。
日本では、国会議員の間で日本の防衛研究所と台湾の国防安全研究院の提携を図ろうとする動きもあると仄聞しているが、防衛研究所がこの話に乗ってこないという。研究所同士の交流なのだ。チェコができて、なぜ日本ができないのか。不可思議なことだ。
国会同士の友好声明に至っては、衆議院議長も参議院議長も、中国から政治家の台湾への公的訪問は「台湾問題における厳粛な約束」違反と圧力をかけられているせいか、訪台のそぶりもないのが現状だ。 イギリスも台湾と外交関係を有していない。しかし、3月28日、リンジー・ホイル下院議長は謝武樵・駐英代表と面会し、それをイギリス側は情報を公にした。
日本の場合、台湾の台北駐日経済文化代表処代表はじめ職員は国会への出入りを禁止されていることから、衆議院議長が駐日台湾代表と国会内で面談することはそもそも不可能だ。
ところが、萩生田光一・自民党政調会長や世耕弘成・参議院自民党幹事長などが訪台すれば、蔡英文・総統とも游錫●・立法院議長などとも面談できる。(●=方方の下に土)
台湾側が鷹揚で寛大なのか、日本川が狭量なのかはともかく、外交上の互恵の観点からすれば、日本と台湾では著しくバランスを欠いているのが現状だ。
下記に紹介する太平洋島嶼国家のフィジー共和国も、台湾とは国交がない。しかし、フィジーにある台湾の出先機関の名称を「2018年から使用されていた『駐フィジー台北商務弁事処』から『中華民国(台湾)駐フィジー商務代表団』に変更し、職員に対して外交特権を付与」(中央通信社)したという。
フィジーは1970年10月10日にイギリスから独立し、日本は独立と同時に同国を承認している。台湾がフィジーに出先機関「中華民国(台湾)駐フィジー商務代表団」を開設したのは翌1971年で、2018年11月の政権交代まではこの名称が使われていた。しかし、当時のフィジーは中国との関係を強めたことにより、中国からの圧力により「駐フィジー台北商務弁事処」に変更され、外交特権も剥奪される。
しかし、2022年12月の総選挙で政権交代があり、今年の3月15日にかつての「中華民国(台湾)駐フィジー商務代表団」に復帰させ、外交特権も付与されたという。
すでに北欧のリトアニア共和国では2021年11月、首都ヴィリニュスに事実上の大使館となる代表事務所に台湾の名を冠した「駐リトアニア台湾代表処」を開設している。
日本でも、東京・白金台にある「台北駐日経済文化代表処」の名称を「駐日台湾代表処」に変更したらどうかとか、カウンターである台湾の「日本台湾交流協会台北事務所」の職員には外交特権が与えられているのに、なぜ日本は台北駐日経済文化代表処の職員に外交特権を与えないのかという質問が国会でも出ている。
しかし、外務大臣などの政府答弁は「我が国の基本的な立場を踏まえながら適切に対応してまいりたい」「事柄の性質上お答えは差し控えたい」など口を濁すだけに終わっているのが実態だ。
日本はチェコやイギリス、フィジー、リトアニア、また台湾の総統が私的とは言え立ち寄ることを容認する米国や大臣を公式派遣したドイツなどを見倣い、台湾を「緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナー」と位置付けている現実をきちんと反映すべきだろう。「日中共同声明」を都合よく使う中国の顔色をうかがいながら、いつまでも自主規制している場合ではない。
—————————————————————————————–台湾の在フィジー出先機関、「中華民国」冠する名称に 外交特権も享受【中央通信社:2023年3月30日】https://japan.focustaiwan.tw/society/202303280007
(台北中央社)外交部(外務省)は28日、南太平洋フィジーの外務省から中華民国(台湾)在フィジー出先機関の名称を、2018年から使用されていた「駐フィジー台北商務弁事処」から「中華民国(台湾)駐フィジー商務代表団」に変更し、職員に対して外交特権を付与すると通知があったことを発表した。同部はこれに対して評価と感謝を表明した。
この日開かれた同部の定例記者会見で周民淦東アジア太平洋司長(東アジア太平洋局長)は、24日に正式な通知があったと説明。名称変更は15日に行われたとしている。
フィジーの対応は台湾と中国双方を認める二重承認を意味しているのかとのメディアの質問に周氏は、台湾と国交がない国との関係は、いかなる状況も排除していないと語り、台湾との経済関係を強化する意向のあるどの国に対しても、真剣に検討すると述べた。
フィジーは昨年12月、総選挙が実施され、約16年ぶりに政権交代が行われた。周氏によると、前政権は中国からの圧力により、18年に在フィジー出先機関名称を「中華民国(台湾)駐フィジー商務代表団」から変更していたという。
また現在のフィジー政府は1971年に台湾がフィジーに出先機関を設置して以来、農漁業や医療、教育、人材育成の分野で密接な交流と協力を図り、人民の福祉に貢献していることを高く評価していると指摘。フィジーは太平洋地域で台湾と理念が近い、重要な協力パートナーだとし、引き続き健やかな交流を行い、友好関係を深化させる方針を示した。
(呉昇鴻/編集:齊藤啓介)
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