5月23日の日米首脳会談後に行われた共同記者会見のとき、バイデン大統領が「台湾防衛のために軍事的に関与する用意があるか」との質問に対し「YES(ある)」と明言し、続けて「それがわれわれの約束です」と発言したことが大きな波紋を投げかけている。
まずは、記者会見でどのように発言したのかを紹介したい(日本語訳は、日テレニュースが伝える同時通訳者から)。
なお、バイデン大統領の「そう約束しましたから介入いたします(that’s the commitment we made)」という発言は「それがわれわれの約束です」とも「それがわれわれの責務だ」とも伝えられ。また、バイデン大統領は「that’s the commitment we made」を2回繰り返してから説明に入っていることにも注意したい。
◆日米共同記者会見:日テレニュース[5月23日 42分26秒] https://news.ntv.co.jp/category/politics/6cba21f6025e4730850e423c5d645d6e *バイデン大統領の「軍事介入発言」は41分15秒過ぎの記者質問から。
記 者:台湾を守るために軍事的に介入されるんですか? 大統領:はい。 記 者:されるんですか? 大統領:そう約束しましたから介入いたします。 そう約束しましたから介入いたします。いいですか、こういう状況です。わかりますか?
朝日新聞は「この発言は、歴代米政権の『あいまい戦略』を踏み越えたものだ」と報じ、自民党の外交部長で台湾政策検討プロジェクトチーム座長の佐藤正久・参院議員も「一線を越えた発言だ。大統領の本音が出た極めて良い失言だ」とコメントしている。
一方、ホワイトハウス・オフィスやロイド・オースティン国防長官は「政策に変更はない」と表明し、台湾の外交部も歓迎と感謝の意を表明しつつ「アメリカの対台湾政策は変わっていない」と述べている。
バイデン大統領自身も、翌日の日米豪印「クアッド」首脳会談でも、記者団から改めて問われ、「台湾についての政策は全く変わっていない」と述べている。
ただ、本誌でも何度か伝え、今回の発言をめぐってもその「前科」が報じられているように、バイデン大統領が台湾有事に軍事介入すると発言したのは今回が初めてではない。
2021年8月19日に放映された米ABCニュースのインタビューで「もし誰かがNATOの同盟国に侵攻したり、実力を行使したりすれば、我々は対応する。それは日本や韓国、台湾も同じだ」と、「台湾に対しても防衛義務がある」と発言し、その2ヵ月後の10月21日には、CNNテレビで「中国が台湾を攻撃した場合、アメリカは台湾を防衛するのか」との質問に対し「そうだ、われわれはそうする責務がある」と発言していた。
それを伝えたとき、本誌では「一国の元首が2ヵ月に2度も同じ問題で口を滑らせることなどあるのだろうか」と疑問を呈し、日本の内閣総理大臣なら「舌禍事件」として野党の餌食になるのだろうが、政権側も火消しはしてみせるものの困った様子はなく、野党の共和党議員から応援声明も出てくるほどだ、と指摘した。
今回も同じだ。今回はそれに加えて、バイデン大統領自身が「台湾についての政策は全く変わっていない」と発言している。
編集子は、昨年10月の2回目の発言から「失言」ではないと見ている。
今回は、ロシアによるウクライナ侵略のさ中の発言であり、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と首脳会談を経てからの日米首脳会談後の記者会見の場だ。テレビ局のインタビューとはワケが違う。日本ばかりでなく世界のメディアが注目する場での発言だった。中国はバイデン大統領の一挙手一投足も見逃すまいと、発言には特に意を払っていたはずだ。
そのような状況で、米国大統領が従来の曖昧戦略を踏み越えるような「失言」をするとは考えにくい。現に手元のメモに目を落しながら発言している。
バイデン大統領の発言は、中国に米国は台湾有事へ軍事的介入をすると思わせることで、台湾侵攻を踏み止まらせることが最大の狙いだろう。
米国には台湾有事への軍事介入の意志があると発言しつつ、米国の「一つの中国政策(”one China” policy)」は変わっていないと述べることにより、米国は曖昧戦略を踏み越えたと中国が受け取ってくれればよいのだ。台湾侵攻に歯止めがかかればよい。米国の「曖昧戦略」をバイデン流に強化したのが記者会見発言だったのではないだろうか。
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