ダライ・ラマ法王の台湾被災地慰霊で明らかになった台中関係の本質

台湾は「八八水害」を機に中国の唱導する「中華民族」幻想から目覚めるべき

 8月30日、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ法王が台湾を訪問し、31日、被害が
特にひどかった高雄県小林村を訪れ犠牲者を弔った。

 これは、陳菊氏(民進党)が市長を務める高雄市などの台湾南部の7つの県と市の首長
が連名でダライ・ラマ法王の台湾訪問を招請したことによるが、馬英九総統も賛成し、総
統府は「われわれは世界各国の宗教リーダーの台湾における宗教活動を歓迎している。今
回、ダライ・ラマ14世が台風8号の犠牲者の法会に参加し、被災者の平安無事を祈るため
に台湾を訪問するため、われわれはそれに対しても歓迎する」と強調したほどだ。

 ところが、当初予定されていた31日の記者会見は取り止めとなり、9月1日の高雄での講
演会は会場が変更となり、3日の桃園での講演会も中止されるという。

 ここで注目されるのが、中国政府の反応だ。8月27日、台湾政府がダライ・ラマ法王へ
のビザ発給を発表するや、「いかなる形式や身分であっても断固反対する」と述べ、「ダ
ライは単純な宗教者ではなく、宗教の旗の下に国家分裂活動を進めている」と強調した。

 また、30日にダライ・ラマ法王が台湾に着いた時には改めて「断固として反対する」と
述べ、「ダライの訪台は両岸関係にマイナス影響をもたらすに違いなく、我々は事態の進
展を注意深く見守っていく」と発表している。

 そのような中国に、「ダライ・ラマ訪台は台中関係に影響しない」とする馬英九政権は
使者を派遣して理解を求めた。

 ところが中国の反発は一層強くなり、台湾との定期直行航空便が開始された31日には各
地で準備していた記念式典を急遽中止し、中国国務院台湾事務弁公室の王毅主任に至って
は遼寧省丹東で行われた「遼寧・台湾週間」の開幕式出席を取りやめている。

 これが中国のやり方だ。台湾の国連加盟問題や国際機関加盟問題などでも散々使ってき
た中国の妨害工作なのだ。台湾は何度も中国に煮え湯を飲まされてきた。

 馬英九総統は台北市長だった2001年にはダライ・ラマと会談し、総統候補だった昨年3
月には、中国チベット自治区での大規模騒乱を中国当局が武力鎮圧したことについて「北
京五輪の参加停止も排除しない」と批判したことは未だ耳目に新しい。

 ところが、台湾の対中傾斜が急激に進んだ総統就任後の昨年12月には、ダライ・ラマが
訪台の意向を示した際に「いい時機ではない」として拒否した。そして今回の訪台時の対
応だ。

 これまでも指摘されてきたことだが、中国のいう「日中友好」とは、中国の意向に沿っ
たものでなければ友好ではないということだ。「両岸関係」もまた然りだ。中国が妨害工
作に出るのは、相手の立場の弱いと踏んでいるときである。

 いささか古い話になるが、2007年6月、安倍内閣時代、李登輝元総統が奥の細道探訪の
ために訪日されようとしたときのことだ。ドイツで開催された主要国首脳会議のとき、中
国がその直前の台湾の李元総統の訪日を理由に会談を拒否してきたことがあった。そこで
安倍総理は「会談開催に李氏訪日の件を絡めるならば、会う必要はない」と突っぱねた。
その結果、胡錦濤主席は「条件はつけない。ぜひ会談を行いたい」と全面的に折れる形で
決着し、首脳会談が実現した。下記に、それを報じた産経新聞を紹介した本誌記事を掲載
する。

 台湾は中国に侮られている。ダライ・ラマの訪台について中国の理解を求めるなど愚の
骨頂だ。これではまるで朝貢国の態度ではないか。これで中国が台湾をどのようにみてい
るのかが明白になった。台湾は中国の唱導する「中華民族」幻想から目覚めるべきときで
ある。多くの犠牲者を出した台湾八八水害を対中関係の転機とすべきであろう。

                 (メールマガジン「日台共栄」編集長 柚原 正敬)

■李登輝前総統来日は安倍首相のぶれない姿勢が中国の譲歩を引き出して実現!
 http://www.melma.com/backnumber_100557_3877745/


ダライ・ラマ、台湾被災地慰問 馬政権、活動制限求める
【9月1日 中国新聞】

 【小林村(台湾高雄県)共同】台湾を訪れているチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ
14世は31日、台風8号の大雨で約490人が土砂崩れで生き埋めになるなど、村全体が壊滅的
被害を受けた南部・高雄県小林村を訪れ、犠牲者を慰霊した。

 8年ぶり3回目の訪台に中国は「断固として反対。両岸(中台)関係に良くない影響を与
える」と2度警告。馬政権はダライ・ラマ側に記者会見中止を要請、講演会場の縮小を求
めるなど、対中関係への影響を「最小限」に抑えようとし、スケジュールが二転三転する
事態となっている。

 ダライ・ラマは小林村での供養後、記者団に対し今回の訪台は「純粋な宗教の旅。政治
とは関係がない」と強調。一方で馬政権の経済を軸とした対中関係強化について「良いこ
とと思うが、台湾がこれまで発展させてきた民主主義や言論の自由を大事にすべきだ」と
注文を付けた。

 亡命チベット人などでつくるグループは、与党国民党が受け入れの理由を説明するため
北京に幹部を派遣、中国側の意向を受け、馬政権が急に態度を硬化させたと指摘。「ダラ
イ・ラマの公の活動を制限する国など世界中どこにもない。馬政権は台湾を世界の笑いも
のにした」と痛烈に批判した。



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