いよいよ現実化する日本の「ファイブ・アイズ」入りと重大な懸念  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2021年4月28日】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付したことをお断りします。

◆イギリスが推す日本の「ファイブ・アイズ」加入

 4月21日、山上信吾駐オーストラリア日本大使は、オーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルドのインタビューで「日本の『ファイブ・アイズ』加入が進展している。私は近い将来について非常に楽観的だ」と述べたことが、アジア各紙で話題になっています。

 ファイブ・アイズとは、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの英語圏5カ国による機密情報共有の枠組みのことです。この5カ国はUKUSA協定というものを結び、英米をはじめとする諜報機関が世界に張り巡らせた情報網を互いに利用、共有するというもので、第二次世界大戦に英米で結ばれ、冷戦期に他の3カ国が加わり、今日に至っています。

 第二次世界大戦中、あの有名なドイツの暗号機エニグマを英米共同で解読したことが、ファイブ・アイズの発端となったとも言われています。

 そして現在、中国の脅威が世界的な問題になるなか、民主主義と人権といった価値観を共有する国々の連携が求められており、ファイブ・アイズの重要性が高まっているわけです。

 日本ではあまり話題になっていませんが、前述の山上大使の発言は、韓国の中央日報や台湾の自由時報など、アジア各地の新聞が大きく伝えています。

 日本のファイブ・アイズ参加を後押ししているのがイギリスです。ボリス・ジョンソン首相は昨年9月、日本のファイブ・アイズ参加を「自分たちのアイデアだ」と述べ、日本の参加は「(現在の日英関係を)さらに発展させるための非常に生産的な方法になるかもしれない」と指摘しました。

 2017年8月、当時のイギリス首相だったテリーザ・メイ首相が来日し、安倍首相とのあいだで日英安全保障共同宣言を発表しました。これは「新・日英同盟」とも呼ぶべきもので、同じ海洋国家であり民主主義国かつ法治国家である日英が、グローバルな戦略的パートナーシップを構築し、さらに次の段階に引き上げることなど、17の項目で合意したという内容です。

 そして先日、イギリスは同国最大級の空母「クイーンエリザベス」を中核とする空母打撃群をアジアに派遣し、年内に日本にも初寄港することを発表しました。

 イギリスは2020年1月31日にEUから離脱(ブレグジット)しましたが、ヨーロッパ大陸から離れ、大英連邦に所属していた、あるいは現在も所属している国が多いインド太平洋地域へ軸足を移しつつあります。そのために、日本の情報網も積極的に活用していきたいということなのでしょう。

 加えて、イギリスは香港問題で中国に約束を反故にされ、怒り心頭です。香港返還の前に中国はイギリスに対して「一国二制度」を50年間守ることを約束しましたが、2020年6月末に中国は香港に対して「香港国家維持法」を施行し、一方的に「一国二制度」を事実上破棄してしまいました。

 中国と対峙するためにも、日本の力が必要だということです。

◆ニュージーランドが日本加入に反対する切ない理由

 しかし、これに対してニュージーランドが反対しています。ニュージーランドはファイブ・アイズの役割拡大についても慎重姿勢で、同国の外相は「ファイブ・アイズの権限拡大は不快だ」とまで発言しています。

 ニュージーランドにとって中国は最大の貿易相手国で、今年1月には中国とFTAを強化する改定協定に署名しています。

 また、ニュージーランドはファイブ・アイズに加盟しているため、アメリカが主導するファーウェイ機器の通信網からの排除に同調しており、中国からその嫌がらせとして、中国観光客のニュージーランド渡航禁止といった仕打ちを受けています。

 加えて2019年2月には、ニュージーランド航空が中国に提出した着陸申請書類に「台湾」という表記があったことで、上海への着陸を拒否される事件がありました。中国民用航空局は各国の航空会社44社に対して、台湾の表記を「中国台湾」に改めるよう要求しているなかでの、露骨な嫌がらせでした。

 こうした経済的な締付けにより、ニュージーランドは態度を中国寄りにせざるをえなかったということでしょうが、ファイブ・アイズにとっては亀裂が入る由々しき事態です。

 ニュージーランドでもオーストラリア同様、中国系国会議員が中国から巨額資金を受けていた疑惑があり、そのことを論文で発表した大学教授は、パソコンが3台も盗まれたり、脅迫状を送りつけられるといった被害にあっているそうです。

 かなり以前に私がニュージーランドとオーストラリアを訪れた際、すでに中国政府によるさまざまなスパイ活動を耳にしていました。近年、ニュージーランドの日本人の話では、中国からの移住者が多くなり、法輪功の活動さえ難しくなったそうです。

 その他、南太平洋の国々も中国による浸透工作の標的になっています。

◆日本のファイブ・アイズ加入の問題点

 こうした状況もあって、イギリスは日本を新たなファイブ・アイズのメンバーとして組み入れたいと思っているのでしょう。また、イギリスがEU離脱したことでヨーロッパの情報が手薄になったことから、フランスなどをファイブ・アイズに加えようという動きもあるようです。

 ただし、日本の場合で最大のネックとなるのが、スパイ防止法がないことでしょう。日本がスパイ天国であることはすでに常識です。機密情報がほんとうに守れるのか、他国にとっても懸念が絶えないでしょう。親中派の国会議員も多くいます。

 そのため、当分のあいだは「ファイブ・アイズ・プラス」として参加することになるのではないかと言われています。

 スパイ防止法というと、すぐに「国民が政府の監視下に置かれる」「うっかり内緒話もできない」などと言う人がいますが、安全保障や最先端技術の機密情報が盗まれ、さらには価値観を同じくする西側諸国の輪に加われないでいいのでしょうか。

 ニュージーランドはカネの力で中国に屈せざるをえなくなりつつあります。チャイナマネーで国会議員が中国に有利な政策を行うことになれば、それは民主主義の崩壊であり、国民主権の崩壊でもあります。すでに香港はそうなってしまいました。

 オーストラリアでも中国が親中派議員を送り込んで国政に影響を及ぼそうとしている動きを非常に警戒しています。

 日本では親中派や媚中派によるスパイ防止法潰しが行われてきました。一部の人間に対する浸透工作は進んでいます。この獅子身中の虫をいかに取り除くのかということが最重要課題の一つだといえるでしょう。

 私は日本が早くファイブ・アイズに参加し、「シックス・アイズ」として中国監視網の輪に加わるべきだと考えています。時間はあまりありません。そのための環境整備を急ぐべきです。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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