会の成果として世に問うのが本書だが、尾崎萼堂のシナ征伐論の分析がなされていたり、
独自で新鮮な論文が五つ詰まっている。
なかでも白眉は台湾監察院の研究である。
中華民国というのは五権体制。日本は三権分立が建前だが、司法の左傾化は蔽いがた
い、立法府と行政府は必ずしも独立関係ではなく、官僚支配が存在する。
この中華民国独特のシステムである「監察院」にメスを入れた珍しい研究論文が最後に
含まれていて興味深い。
浅野教授は言う。
「中華民国憲法は本来、大陸と台湾を包含する大中国を統治するために制定されてもので
ある。しかし、国共内戦の結果として、中華民国の実態は大幅に縮小され、憲法と現実と
に大きなずれが生じることになり、その後の民主改革とともに憲法修正が繰り返された。」
それゆえに「監察院に焦点を当てながら、中華民国憲法の変遷を説明し、その意味での
中華民国の台湾化の過程」(浅野教授)を独自な視点から紹介している。
台湾研究者には欠かせない書物となった。
【宮崎正弘の国際ニュース・早読み:平成24(2012)年12月18日】
浅野和生(あさの・かずお)
昭和34年、東京生まれ。昭和57年慶應義塾大学経済学部卒業、同63年慶應義塾大学大学院
法学研究科博士課程修了、法学博士。昭和61年中部女子短期大学専任講師、平成2年関東学
園法学部専任講師、後、助教授、同8年平成国際大学法学部助教授を経て、同15年より教
授。日本選挙学会理事、日本法政学会理事。著書に『大正デモクラシーと陸軍』『君は台
湾のたくましさを知っているか』『台湾の歴史と日台関係』、共著書に『運命共同体とし
ての日本と台湾』『日米同盟と台湾』『アジア太平洋における台湾の位置』『続・運命共
同体としての日本と台湾』『東アジア新冷戦と台湾』『激変するアジア政治地図と日台の
絆』『馬英九政権の台湾と東アジア』など。
・書 名:『日台関係と日中関係─「日中国交正常化」を見直す!』
・編著者:浅野和生(平成国際大学教授)
・体 裁:四六判、並製、216ページ
・版 元:展転社
・定 価:1680円(本体1600円+税)
・発 売:2012年12月8日
http://tendensha.co.jp/