法の真実─近代国家建設の大事業』を上梓した。宮崎正弘氏が力の入った紹介をしている
ので、下記にご紹介したい。
前著『教育勅語の真実』は教育勅語の成立過程を描き、帝国憲法の起草を背景に、明治
日本のグランド・デザイナーといってもよい井上毅による教育勅語の起草を、起草者の一
人である元田永孚との私心を廃した熾烈なやり取りを経て作り上げてゆく史実を描いた。
前著『教育勅語の真実』が明治日本をつくった魂の物語だとすると、本書は古事記以来
の伝統を重んじて近代日本の骨格をつくった魂の物語だ。
一見すると、台湾と関係ないように思われるかもしれないが、台湾統治の背景に明治憲
法があり、台湾の民をいつくしまれた明治天皇の魂魄のこもる憲法だった。また、日本も
台湾も「1946年憲法の克服」という同じ難問を抱えている。日本の歴史や伝統と関係なく
制定された日本国憲法、台湾の民とはまったく関係なく制定された中華民国憲法。双子の
ような憲法なのだ。
本会では前著『教育勅語の真実』をお奨めしたように、本書もまた台湾関係者にお奨め
したい。
・書 名:『明治憲法の真実─近代国家建設の大事業』
・体 裁:四六判・上製・208頁
・版 元:致知出版社 http://www.chichi.co.jp/book/
・定 価:1,470円(税込)
・発 売:2013年7月19日
伊藤哲夫(いとう・てつお)
昭和22年、新潟県生まれ。新潟大学卒業。国会議員政策スタッフを経て、政策提言機関の
日本政策研究センターを設立し所長に就任。現在、同センター代表、日本会議常任理事、
日本李登輝友の会常務理事。著書に『憲法かく論ずべし』『美しい国再生への提言』『国
家なき日本を問い直す』等。
【宮崎正弘の国際ニュース・早読み:平成25(2013)年8月11日】
近代国家建設の大事業は歴史の舞台裏でこうやって展開された
大久保、木戸が去って岩倉も病逝し、すべては伊藤博文の肩に掛かったが……
伊藤哲夫『明治憲法の真実』(到知出版社)
憲法論議がついに本格化する様相を見せている。
96条改正という矮小な話ではない。占領憲法にすぎない現行の「日本国憲法」は国際法
に照らしても違法ゆえに廃棄するのが、主権国家のやるべきことだが、この意見は『暴走
老人』以外からはあまり聞こえてこない。ま、正論が通りにくい日本の現状を鑑みれば、
それも当然の理の帰結であるが。
もし法理論にしたがえば、明治憲法に復元し、それを改正するプロセスが適切だが、そ
もそも枢密院も貴族院もなくなって半世紀以上を閲してしまったから、適法を適用する法
源が消滅している。状況からしても正論は通用しなくなった。
なにしろ押しつけ憲法を墨守して66年、史上こんな体たらくな国はなかった。
廃棄か、自主憲法か。今後の議論を進めていく上で、自民党の改正案、読売新聞と産経
新聞の改正案も出そろい、ほかにも私擬憲法草案がいくつか出ている。
さて。
憲法論議の前に、われわれは明治憲法を知らなければならない。いったい明治憲法の何
をわれわれは知っているというのか?
この憲法はGHQや左翼歴史家、メディアの左翼らによって「反動的」「封建的」「独
裁的」などと滅茶苦茶な攻撃を受けてきた。攻撃する側はおそらく誰一人として明治憲法
を読んだことも検証したこともないだろう。
明治憲法は当時の国際情勢に照らしても超一流の憲法、世界にほこるべき開明的な民主
主義憲法であった。
その議論は、しかし別の機会に譲る。
本書が明らかにしているのは明治憲法の成立までの裏話と交渉秘話と、そして何よりも
伊藤博文、明治天皇の濃密な関与。そのうえ、まだまだ知らなかったことが夥しくある。
すなわち、明治憲法はいかなる理想を掲げて、どういう過程をへて制定されたか、具体
的にドキュメント風に或いは小説風にかかれた書籍が過去にほとんどなかったという驚く
べき現実である。
明治初期、廃藩置県によって失業した武士が二百万。その不平不満は佐賀の乱、神風連
の乱、萩の乱、秋月の乱、そして思案橋事件を付随したが、ついに下野していた西郷隆盛
がたって西南戦争となり、戦争中に木戸孝允が病没し、戦後すぐに大久保が暗殺されて、
岩倉のほかに強い政治力をもつ政治家がいなくなった。
板垣は在野にあって民権運動を展開し、またルソーやミルが翻訳されて、民主主義議論
が在野に沸騰していた。憲法の制定は急がねばならず、だからといって鹿鳴館の西洋かぶ
れのような猿まね憲法はつくれない。
伊藤哲夫氏は、この歴史の空白、その制憲史の謎に挑んだ。
前作の『教育勅語の真実』もしっかりした歴史考証を重ねての労作だったが、本書を通
じて、明治人らがいかに愛国精神に燃え、基本の精神には尊皇のこころがあり、五箇条の
ご誓文の基礎の上に、イギリスとプロシアから学びつつも、しかも外国人顧問の法律的専
門意見を聞きながらも、古事記以来の伝統を重んじた条文となった。
苦労に苦労を重ねてやっと制定に漕ぎ着けたこと。条文を逐一討議する参議の会議に、
なんと明治天皇が皆出席されていたという歴史的事実も評者(宮崎)は、本書とを通じて
初めて知ったことだった。
明治憲法には日本の魂がこめられたのだ。
さらに条文の検討の過程に政変がからみ、板垣、大隈らが介入し、自由党、改進党を懐
柔するために条文案の取引があり、これほどの波瀾万丈のドラマが背後に展開されていた
ことも知るよしもなかった。
憲法論議を前に、本書は必読文献のひとつとなるだろう。