一青妙(ひとと・たえ)さんは「ノートに書かれたレシピを一つ一つ丁寧になぞってい
けば母に近づける」と思った。この本は母親の料理と、それにまつわるエピソードでつづ
られている。
母親の名は一青かづ枝さん。7人兄弟の末っ子として生まれたかづ枝さんは、人一倍好奇
心が強く、明るい人で、台湾人の夫と結婚した後の苦労も持ち前の明るさで乗り越えてき
た人だという。
その母親の料理の腕前は一級品。長女の妙さんは美味しかった料理を一つ一つ思い出し
ていく。
娘たちにせがまれ、手間を惜しまず作ってくれた「大根餅」。白いご飯が苦手な妙さん
への「お粥」。小学校から高校卒業まで作り続けてくれたお弁当。台湾式浅漬けの「涼拌
黄瓜」は夫の両親にも認められた。夫の実家(顔家)のお祭の豪華料理。ひき肉の蒸した
もの「瓜仔肉」。母が采配を振るった「チマキ」等々。
読み進むにつれ、台湾料理の八角や香菜の匂いが思い出され、涎が落ちそうになってく
る。
妙さんの母親が家族を思い、料理を懸命に学び、せっせと作ってきた姿が思い浮かぶ。
そして料理にまつわるエピソード、父母や伯母たちの手紙は切ないほどの愛情に溢れ、読
者の心をきゅっと締めつけるのだ。
娘たちの前ではいつも快活であった母親も、慣れない台湾、ときどき閉じこもってしま
う夫に悩み、よく似た境遇の恵美さんの前では涙をこぼしていた。
妙さんが20代前半で母親を亡くしたときには知らなかったことが、その後、人生経験を
重ね、レシピをたどり、母親に近しい人々を訪ねるうち、当時の母親の気持ちが痛いほど
分かってくるのである。
誰でも母親の料理で育てられる。やがて大人になって、母と料理がぴったり重なって思
い出されるものだ。
妙さんのこの本は、母親の料理に込めた思いを丁寧に解きほぐすようにつづられ、母親
への感謝がふつふつと湧きあがってくる様子を伝えている。読者もきっとしみじみと、母
への思いが募ることだろう。
【評:室和代・李登輝学校卒業生】
・書名:『ママ、ごはんまだ?』
・著者:一青 妙
・体裁:四六判、並製、212頁
・版元:講談社
・定価:1470円(税込み)
・発売:2013年6月28日
http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2182890