【良書紹介】岡崎久彦『台湾問題は日本問題』

本書冒頭に「読者へのお願い」として、著者の岡崎久彦氏が読み方の順序を示してい
る。まず終章、次は第8章の第1論文、はじめに、第1章、そして第7章の第2論文の順を
示し、「それ以外は、特別な興味のある方以外は、お暇なときに拾い読みしていただけ
れば光栄に存ずる次第です」と述べている。それに従って読んでみた。

 やはり、終章の「台湾問題の将来」からが確かにお勧めで、まず総統選挙のときに民
進党の謝長廷候補の勝利を期待した理由として、国民党が政権に復帰することによって
台湾の民主主義に危機が訪れることを危惧したからだと述べる。

 また中国と台湾のこれからの関係を予測し、台湾は中国の「一つの中国」原則を受け
入れる場合は国際機関加盟という実質的な対価を得て、それ以上の譲歩は峻拒し、中国
との経済交流が拡大したらその代償として武力行使放棄宣言を求めよ、と提言している。

 今後10年、民進党が政権復帰する可能性が低いことも指摘し、日本と米国は台湾が主
権と安全保障で譲歩しないよう緊密な協力関係を保ち続けることの重要性を指摘する。
台湾も軍備の充実を怠らず、間違っても中国と中立の約束などしないようにと釘を刺す。

 この論文の最後に、氏は40年も台湾問題に関わったことを述べ、さらに10年は関わる
覚悟を披瀝しつつ、「それは日本の国益に関することだからである」とその理由を述べ
て括っている。

 それにしても、氏の文章は考え抜かれた達意の文章である。それに加え、文字が立っ
ている。名文家であることを改めて思い起こさせる一書だ。台湾問題に関わる全ての方
々にお勧めしたい。

 なお、本日の産経新聞に書評が掲載されていたので紹介したい。ただ、その冒頭で台
湾を東西ドイツ、南北朝鮮と同様の分裂国家だと腑分し、1970年に「暗に二つの中国論」
を述べた佐藤栄作首相のスピーチ原稿を書いたという岡崎氏の言説を引用しているが、
果たして台湾は分裂国家なのだろうか。

 当時ならいざ知らず、現在において中国から分裂したと捉えられる危険を冒してまで
台湾を分裂国家と位置付けるのはいかがなものだろう。誤解を招きやすい表現であり、
問題を複雑にさせるだけのように思われる。

 台湾は一度たりとも中華人民共和国の統治下に入ったことはない。分裂のしようがな
い。分裂とはレトリックでしかない。それを、現在でも有効であるかのように用いると、
それこそ「一つの中国」の思う壺だ。                  (編集部)

■書名 台湾問題は日本問題
■著者 岡崎久彦
■体裁 四六判、上製、384頁
■版元 海竜社
■定価 1,890円(税込)
 http://www.kairyusha.co.jp/ISBN/ISBN978-4-7593-1020-7.html


岡崎久彦『台湾問題は日本問題』■平和の鍵を握る最重要課題
【6月21日 産経新聞「産経書房」】

 1970年代、世界には東西ドイツなど分裂国家が複数あり、そのうち3つが東アジアに
ありました。すなわち南北ベトナム、北朝鮮と韓国、そして中国と台湾です。南ベトナ
ムは北ベトナムに統一され、残り2つが、日本にごく近い隣国です。

 日本にとってこの分裂国家の存在は、自国の安全保障だけでなく、毎年軍事費を20%
以上膨張させている軍事大国中国と、日米同盟に直接かかわるアジア全域の平和維持と
いう観点からも、現在の最も喫緊な国際問題になっています。

 もし中国がなんらかの方法で台湾を併合した場合、どうなるのでしょう? 中国人民
解放軍は台湾に進駐し、貿易によってのみ成り立つ資源小国日本のシーレーン(海上補
給路)の生命線である台湾海峡の制海空権は中国の手中に落ち、有事の際は日本経済は
たちまち大混乱に陥ること必至です。

 さらには、台湾が中国に制圧されると南シナ海の航海路も中国の扼(やく)するとこ
ろとなり、日本にとって地理的、歴史的環境から言って米国につぎ大切な貿易相手であ
る東南アジア諸国も中国の意向を重視せざるを得なくなります。『台湾問題は日本問題』
そのものであるゆえんです。

 本書は台湾問題を日本の安全保障にとって最重要課題と位置づけた著者が、1990年初
めから2008年の台湾総統選挙までに発表した台湾問題に関する論文を網羅し、現在の観
点から、そのおのおのの論文に論評を加えるという非常にユニークな仕事です。歴史に
残る労作といえます。(海竜社・1890円) 

                            海竜社編集部 藤波定子



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