『日台共栄』12月号:【台湾と私】李登輝さんの謎めいた質問 伊藤栄三郎

李登輝さんの心情の一端を垣間見た

 伊藤栄三郎氏(本会新潟県支部長)は旧制台北高等学校で李登輝前総統と同級生(昭和
18年卒業)で、青年李登輝の素顔を知る数少ない日本人の一人です。その伊藤氏に李登輝
前総統が話した一端を、機関誌『日台共栄』の巻頭エッセイ「台湾と私」でご紹介いただ
きました。
 本文の中に、李前総統のキリスト教入信について出てきています。李前総統が初めて洗
礼を受けたのは、資料によれば1961年、38歳のときのようです。その後、1984年にキリス
ト教聚会所から長老教会へ移籍しています。
 観音山登頂は第8代総統に就任した1990年のことで、エッセイでは、李前総統ご自身が
「それから五年後にキリスト教に入信した」と語ったことを紹介しています。文意からし
ますと、これはキリスト教を本当に信仰し始めたのは総統就任から「5年後」ということ
のようです。李前総統は確かにそう仰ったそうですので、蛇足かもしれませんが補足させ
ていただきます。
 ちなみに、1995年は2月に「二二八慰霊碑」が建立され、4月には尊父の李金龍が亡く
なり、6月にアメリカのコーネル大学で講演を行なっています。     (編集部)


台湾と私(10)李登輝さんの謎めいた質問

                       本会理事・新潟日報社友 伊藤栄三郎

 産経新聞など一部報道によると、台湾の李登輝前総統は来年五月中旬ころ来日し、念願
の芭蕉の「奥の細道」を歩き、日本古来の文化を研究したいという。むろん日本李登輝友
の会はこぞって大歓迎するが、外務省も今回は隣国への気兼ねを止め、さる十月のアメリ
カ旅行同様、自由で気軽な旅になるよう毅然として対応して欲しいと思う。
 少し古い話になるが、平成十五年九月、台北で開催された台湾正名運動に参加した際、
私は李登輝さんの心情の一端を垣間見たような気がしている。
 当日のデモは予想をはるかに超える二十数万人が参加、「台湾は中国ではない」「台湾
万歳」のシュプレヒコールは、過去二、三百年、外国勢力に抑圧された台湾民衆の雄叫び
のように私には聞こえた。総召集人である李さんは術後それほど日が経っていなかったに
もかかわらず、デモの先頭に立っていた。
 その夜、圓山大飯店で催された晩餐会でのことである。旧制台北高校同期という誼で、
私はメインテーブルの、しかも李さんの隣の席に座らされた。緊張したのはいうまでもな
い。やがてセレモニーが終り会食になった時、李さんは私にすり寄って、謎めいたこんな
質問をした。
「観音山のテッペンの切り立ったところに立ったとき、人間は何を考えるだろうか」
 観音山は台北市周辺の山で、山の形が観音様の仰臥している姿に似ているところからこ
の名がついたという。
 私は質問の内容がつかめずドギマギして「わからない」と答えると、李さんは言った。
「君は幸せなんだ。私が山のテッペンに立ったのは総統になったときだ。そこで手を合わ
せていると、モヤモヤしたものが消え、爽やかな気持になった。経験や知識ではまかなえ
るものではない。そのとき私は、信仰というものを初めて感じた。それから五年後にキリ
スト教に入信した」
 この「五年」という言葉が私の耳に突き刺さった。なぜなら、彼が最も困難な危急存亡
の淵に立たされ時期と付合していたからである。
 一九八八年、副総統だった彼は蒋経国総統の急逝により総統に昇格した。ところが、当
時の国民党幹部は猛反対し、党主席の座はどうしても与えてはならないと総統・主席分離
問題が起こった。ハワイにいた蒋介石夫人の宋美麗は「台湾人が総統になるなんてとんで
もない」と面罵したという。
 正に針の莚(むしろ)に立たされ、綱渡りの毎日だったと推測する。しかし、時の流れ
に抗することはできないものだ。七月、党常務委員会で主席に選ばれた。そして、中国で
は天安門事件が発生し、台湾でも学生が大挙して万年議員廃止を要求するなど、こうした
騒がしい中の一九九〇年、李さんは第八代総統に再選された。
 司馬遼太郎との対談で「台湾人に生まれた悲哀」を語ったのはこの少し後で、彼の苦し
い心情がよく表れていると思う。
 李さんの目線は常に人民に注がれている。過去三百年、一貫して外国勢力に抑圧されて
来た台湾人の苦しみ、それに戦後、怒涛のように侵略してきた国民党軍の飽くなきまでの
弾圧等を目の当たりにして来た李さんは、二度の米国留学を経て、真の民主主義とは何か
を体得したのだろう。「民主の父」とか「日台を結ぶ絆」とかいわれるが、話していて清
々しささえ感ずる。「余生を台湾に捧ぐ」という信念が一日も早く結実することを祈って
止まない。
 最後になったが、来日の折はぜひ新潟に立ち寄っていただきたい。李さんのファンは日
本の片隅にもいるのだ。


機関誌『日台共栄』12月号 目次

【巻頭言】李前総統に制約を課してはならない●加瀬英明 
台湾と私(10) 李登輝さんの謎めいた質問●伊藤栄三郎 
日本の方々と台湾の花見を満喫したい●李 登輝 
日本から台湾に桜の苗木を贈ろう!!●柚原正敬 
台湾地図の訂正要求を決議|緊急国民集会レポート●多田 恵 
中国の「立場」に従う文科省検定●永山英樹
サンフランシスコ平和条約と台湾●彭 明敏
日台共栄前史(9) 東亜新秩序構想で台湾を見出した秀吉●黄 文雄
「台湾返還」という戦後「常識」の虚構●本誌編集部
新趣向の「第三回台湾李登輝学校研修団」●片木裕一
台湾人は靖国訴訟をしていない●蔡 焜燦
日台交流日録(9)
編集部だより 
日台共栄写真館 10 月29日〜11月3日 第三回台湾李登輝学校研修団 表紙3
桜募金のお願い・平成17年 日台共栄の夕べ 表紙4
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