『台湾俳句歳時記』の黄霊芝氏が正岡子規国際俳句賞を受賞!!

『台湾万葉集』で菊池寛賞受賞の呉建堂氏以来の快挙

 台湾で俳句を作り続けている黄霊芝氏(台北俳句会会長)の『台湾俳句歳時
記』(言叢社、平成15年4月刊)には396の季語が取り上げられている。「月餅」
や「鳳凰木」といった台湾特有の風物が黄霊芝氏による達意の文章で紹介され、
それぞれ俳句8句が添えられている。俳句の最後は必ず黄霊芝氏の作品である。
 なんとその季語の中に「八田祭」がある。毎年5月8日に烏山頭ダムの畔で開
かれている八田與一を慰霊顕彰する祭だ。その項にも「烏山頭の水豊かなり八田
祭」(蕭翔文)、「嘉南路の果てまでみどり八田祭」(范姜梢)、「去りしもの
去らざりしもの八田祭」(黄霊芝)といった8つの句が添えられている。
 その黄霊芝氏が去る11月7日、愛媛県松山市の(財)愛媛県文化振興財団が設け
る「正岡子規国際俳句賞」の平成16年度の受賞者にえらばれ、松山市の愛媛県県
民文化会館で行われた授賞式に出席された。初めての来日だった。
 この「正岡子規国際俳句賞」は平成12年に創設され、「世界的詩人としての子
規、そして世界最短詩として俳句を世界に向けてアピールし、このことによって
文化情報を発信する愛媛のイメージアップ、文化活動の活性化を図る」ことを目
的とし、平成16年度は「正岡子規国際俳句賞」大賞はアメリカのゲイリー・スナ
イダー氏(74歳)が受賞し、国際俳句賞は台湾の黄霊芝氏とブラジルのヒデカズ・
マスダ(93歳)が受賞している。
 黄霊芝氏の授賞理由は「季語・季題という俳句の約束事と台湾の風土の独自性
とに真摯に向き合うとともに、日本語と台湾語、日本文化と台湾文化双方への愛
着と美意識を昇華させ、独力で『台湾俳句歳時記』を上梓した。季語・季題の解
説は俳味に溢れており、俳句と歳時記という型を借りた優れた文芸作品である。
同時に、季感というものが様々な風土において再創造可能な普遍性を持つことを
示し、俳句の可能性の拡大に寄与するところ大である」というもの。
 因みに、台湾人で日本文学関係の賞の受賞者は、恐らく平成8年(1996年)に
菊池寛賞を受賞された『台湾萬葉集』の編著者の孤蓬萬里こと呉建堂氏以来2人
目と思われる。やはり快挙だ。呉建堂氏の受賞理由は「『日本語のすでに滅びし
国』台湾にあって日本語を深く愛し、格調ある生活実感ゆたかな短歌を作家編集
した業績に対して」というものだった。とすれば、黄霊芝氏にも菊池寛賞をと願
うのは人情ではないか。
 台湾には「正しい日本語を話そう」を合言葉に、今でも精力的に活動している
「友愛グループ」(陳絢暉会長)がある。本会青年部の夏の台湾研修でもお世話
になった。台北市内で毎月1回月例会を開き、原則として日本語を使い、先ず日
本の作家のエッセーなどの朗読に始まり、漢字や成句の読みや意味用法を教えあ
っている。
 本年6月の月例会では、機関誌『日台共栄』創刊号に掲載された阿川弘之会長
(当時、現名誉会長)の「台湾と私」をテキストにしている。ホームページも開
設している。もちろん日本語である。
 http://www.youai.org/Shokai.htm
 台湾には未だに日本語で話す「日本語世代」が高齢になったとはいえ、少なく
ない。黄霊芝氏の今回の受賞は、なによりも日本語世代にとって励みとなったに
違いない。また、日本と台湾の交流の深さを象徴する出来事だった。心から祝意
を捧げたい。                         (編集部)

黄霊芝氏
1928年(昭和3年)、台湾・台南市生まれ。作家、彫刻家。台北俳句会会長。日
本語を教育言語として育ち、昭和20年が民国34年となるや「不識字」とされる。
1956年(同31年)、『台北相思樹会』に入会、『雲母』に投句を始めるが、国交
不安定のため途絶を余儀なくされる。1969年(同45年)頃、小説『蟹』で呉濁流
文学賞受賞。翌年から水面下で日本語による「台北俳句会」の活動を始める。著
書に『黄霊芝作品集』19巻。編著に『台湾俳句集』30巻。2003年に台湾特有の季
語を集め、それぞれ329文字で解説し例句8句を載せた『台湾俳句歳時記』(言叢
社)を刊行。
 言叢社(げんそうしゃ) TEL 03-3262-4827 FAX 03-3288-3640



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