「米日、台、中」の新たな三角関係を構築した日米首脳会談  頼 怡忠(台湾智庫諮問委員)

 4月16日の日米首脳会談とその後に発表された「共同声明」は、日米が同盟関係をさらに強め、台湾を「自由で開かれたインド太平洋」の要衝として改めて位置づけ、中国の覇権的な台頭を抑えることを世界に公言した点で、やはり画期を成す会談であり共同声明だったと言える。

 日本の各メディアも、この会談と共同声明の意義について有識者の見解を掲載している。日本経済新聞も「日米共同声明を聞く」と題し、4月20日の兼原信克・元官房副長官補に始まる連載を掲載し、元海上自衛艦隊司令官の香田洋二氏、米国のランド研究所のジェフリー・ホーナン研究員、中国外交学院の蘇浩教授に続く5人目に台湾の頼怡忠氏を登場させている。

 頼怡忠氏といえば、民進党の駐米代表処主任をつとめ、羅福全氏が台北駐日経済文化代表処代表をつとめていたときの代表室主任をつとめていたこともあり、日米に知人も多い。日本経済新聞の記事では台湾智庫諮問委員と紹介されているが、台湾では遠景基金会(陳唐山・董事長)執行長の方が通りがいいかもしれない。この日米首脳会談と共同声明をどのように受け止めたか、もっとも知りたかった一人だ。

 頼氏は日米が同盟関係をさらに強めたことを評価し、日米を一体とみて日米同盟をグローバルに再定義したと捉え「従来の『米、台、中』から『米日、台、中』という新たな三角関係が構築された」との理解を示している。日本に対しては「台湾とさらに緊密に連携を図るべきだ」と述べている。

—————————————————————————————–台湾、グローバル化した「日米同盟」と連携重要頼怡忠・台湾智庫諮問委員【日本経済新聞日米共同声明を聞く(5):2021年4月27日】https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM219ZB0R20C21A4000000/?unlock=1

 日米共同声明は、日本が台湾海峡問題について自ら望んで一定の役割を果たすと世界に示した。

 従来の「米、台、中」から「米日、台、中」という新たな三角関係が構築されたという理解だ。台湾は「対米」「対日」と別々に捉えるのではなく、今後は日米が一体とみて対中戦略を含めた外交戦略を考える。

 橋本龍太郎元首相とクリントン元大統領が1996年に合意した「日米安全保障共同宣言」に劣らず重要なものとなった。同宣言は冷戦時代が終わり、日米同盟の意義が問われる状況で両国が改めてそれを再定義した。

 今回の声明はさらに進んだ。5Gや半導体の協力も含め、地域の問題から地球規模の問題まで日米両国の立場と態度、将来果たす役割を広範囲に明確にした。

 日米同盟をグローバルに再定義した「日米同盟グローバル版2.0」といえる。グローバル化した日米同盟を前に台湾が日米と協力関係を深めることが非常に重要だ。

 今回の合意に至るまで、中国の日本への圧力も通用しなかった。台湾問題が明記され、3月の日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)から後退することはなかった。

 2プラス2の「台湾海峡の平和と安定の重要性」が踏襲されただけでなく「両岸問題の平和的解決を促す」との文言が加わった。解釈は様々だが中国からすれば内政干渉にあたる表現だ。台湾への強い支持が示されたとも解釈できる。

 中国は共同声明について、国民への影響も考慮して反応を抑えた。強く反応するタイミングを選んでいるだけだ。

 20日には国際経済会議「博鰲(ボーアオ)アジアフォーラム」での習近平(シー・ジンピン)国家主席の演説も控えていた。その前に騒ぎ立てたくはなく、過剰反応は避けた。世論も意識して共同声明を大ごとにしたくない意図があった。

 中国は台湾に対して軍事的な威嚇行為を強化する以外の選択肢はない。日本に関しても釣魚台(日本名・尖閣諸島)周辺で中国公船が領海侵入を止めることはない。

 一方で日米韓の同盟関係の分断も狙うだろう。戦略的に日本と韓国に経済的、政治的な特別な利益を与える可能性がある。

 中国はバイデン政権への移行で関係改善を期待していた。それが期待外れに終わったいま、対米戦略の見直しを迫られている。中国は戦略的に米国との交渉レベルを下げるだろう。日本は共同声明を受け、台湾とさらに緊密に連携を図るべきだ。

(台北=中村裕)

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