「台湾統一」の妄想を現実化させようという京台高速鉄道の噴飯  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2022年8月17日】https://www.mag2.com/m/0001617134*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付けたことをお断りします。

◆習近平の「平和的統一」戦略─北京から台北を結ぶ「京台高速鉄道」

 習近平は、最近になって武力を使って台湾を脅し始めていますが、それはアメリカを始めとする各国要人の相次ぐ訪台に抗議するためであり、それまでは武力ではない方法で台湾をじわじわと追い込んでいました。その象徴が「京台高速鉄道」です。

 このメルマガでも、以前に何度か取り上げましたが、北京から台北を結ぶ高速鉄道を中国政府が計画しており、そのプロパガンダとして「2035年去台湾」という歌を中国国内で流行させました。

 そして、この鉄道を実現させるという習近平の本気度を示しているのが、現在の「京台高速鉄道」の現在の終点駅の駅舎です。

 この駅は、中国側の台湾に最も近い福建省の平潭(ピンタン)島(海壇島)にあります。何もない小さな島でしたが、鉄道を台湾まで通すために、中国本土と平潭(ピンタン)島を結ぶ全長16・34キロの「平潭海峡道路鉄道併用大橋」を作りました。報道によれば、「上層に6車線(片側3車線)の高速道路、下層に複線の高速鉄道用線路が敷かれた巨大な橋」とのことです。

 そして、現在は終点となっている鉄道の平潭駅ですが、この駅舎がとても豪華です。淡路島ほどの小さな田園風景が広がる島に、突如お城のような豪華な駅舎ができたというわけです。その駅舎の周囲には、台湾製品を取り扱う商店がいくつかあり、漢字も中国で使う簡体字ではなく、台湾で使っている繁体字が書かれています。

 その先の台湾への線路は、もちろん台湾側が受け入れるはずもなく、そこで止まったままですが、それでも中国政府の計画はかなり具体的です。以下、報道を一部引用します。

<中国政府が今年2月に発表した35年までの「国家総合立体交通網計画綱要」などによると、平潭島と台湾本島を長さ約130キロの橋か海底トンネルで結ぶことを計画している。島内の平潭駅と、IT産業の集積地で「台湾のシリコンバレー」と呼ばれる新竹の高速鉄道駅を約30分で往来できるようにするという。>

◆中国の独り善がりの野心あらわな「台湾白書」

 この8月、国政府は22年ぶりに、習近平政権としては初めての「台湾白書」を発表しました。これは、中国政府の台湾問題に対する基本的な立場をまとめたもので、内容については以下のようなものでした。

<白書は「台湾独立勢力や外部勢力が挑発し、レッドラインを越えれば断固たる措置を取らざるを得ない」とした。>

<白書では、平和統一や、一つの国家に異なる制度の存在を認める「一国二制度」の導入が台湾問題での基本方針だとしつつ、「武力行使の放棄は承諾しない」と明記。統一に向けた中台間協議の先送りはできないと台湾側に迫った。>

 端的に言えば、香港のように有名無実の「一国二制度」を唱えるだけではなく、中国の言いなりにならなかったら武力も使うよ、という内容です。もちろん蔡英文総統は、「中国は中台の現状を顧みず、独りよがりに白書を出した。目的は台湾へのどう喝だ」と批判しています。

 そもそも中国が発表する「白書」というものは、あくまでもプロパガンダの偽情報でしかありません。中国は尖閣諸島(釣魚台)に関する白書も出しており、野心をあらわにしています。

◆台湾の国論分断を狙う中国の「平和的統一」戦略

 それはともかく、中国は台湾の反応などお構いなしに、「京台高速鉄道」計画をグイグイ推進しています。今すでに、百度(バイドゥ)の地図アプリでは鉄道が台湾まで伸びており、「台湾海峡を渡る橋やトンネルの工事は始まっていないが、アプリには『建設中』と表示され、本土側の福建省と台北間の所要時間は『46分』としている」というのです。

 これについて、「中国国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮(ジュー・フォンリエン)報道官は記者会見で、『京台高速鉄道が福建から台北に至るという長期計画の実現に対する台湾海峡両岸の民衆の美しい願望を反映したものだ』とコメントしていた」とのこと。

 習近平の言う、武力を伴わない「平和的統一」とは、こういうことなのです。台湾の意志を無視して、既成事実を積み上げ、中国と繋がればガスなどのエネルギーや水などを分けてやることも簡単にできるなどと、甘い言葉で中国寄りの台湾人を取り込むのです。いわゆる「サラミスライス戦略」です。

 その誘惑に少しでもグラついたら最後、自由を奪われ、香港と同じように中国の僻地のひとつとなり下がることになることは明らかです。

 しかし、ロシアのウクライナ侵攻で、専制国家に資源やインフラを頼ることの危険性が明らかになりました。すでに甘い言葉に台湾が誘いにのらないことは明らかでしょう。中国が軍事的恫喝を強めていることの背景には、そうした事情もあります。結局、アメとムチをちらつかせながら、台湾の国論を分断しようとしているわけです。

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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