日米同盟強化で対中関係安定化を  浅野 和生(平成国際大学教授)

日米同盟強化で対中関係安定化を  浅野 和生(平成国際大学教授)

【世界日報「View point」:2020年10月8日】

 中国共産党機関紙・人民日報のニュースサイト「人民網」日本語版は9月16日、菅義偉首相の対中政策に対して、中国国際問題研究院国際戦略研究所の蘇暁暉副所長の発言をもってくぎを刺した。

 すなわち「菅氏は中日間の経済・貿易協力を非常に重視し、観光等の分野で中国と協力することも望んでいる。だが同時に、菅氏は依然として安全保障分野の協力を含む日米同盟関係を堅持している。今後、日本は米国と一層歩調を合わせて『インド太平洋戦略』を推進し、米国の『お先棒』を担ぐ可能性が高い。こうした動きは中日関係に不確定性、さらには悪影響をもたらしかねない」と。

◆「二者択一」を迫る中国

 実際、菅首相は、9月5日に発表した自民党総裁選に向けた政策集において、機能する日米同盟を基軸とした外交・安全保障政策を展開し、「自由で開かれたインド太平洋」を戦略的に推進するとともに、中国をはじめとする近隣国との安定的な関係を構築すると述べていた。また12日には自民党総裁選候補者の公開討論会で、「中国や韓国をはじめ、近隣諸国と難しい問題はあるが、二者択一ではなく、戦略的に付き合い、常に意思疎通は行うことができる外交を進めたい」と、日米同盟を機軸にしつつも、中国重視と両立させる意図を示した。

 ところで、昨年の中華人民共和国の国内総生産(GDP)は14兆1700億ドル、日本(5兆2200億ドル)の2・71倍である。しかも新型コロナウイルス禍の、日本各地の状況は、地方の経済が中国人観光客のインバウンドに支えられていることを浮かび上がらせた。

 さらに中国の人民解放軍約230万人、人民武装警察66万人で、日本の自衛隊は22万5000人だから、日本の10・2倍もしくは13・2倍(人民武装警察含む)である。中国の戦闘機759機、戦闘攻撃機794機以上、攻撃機140機、爆撃機約176機で、日本の戦闘機は397機だから中国が4・3倍(各種合計)。また中国は核弾頭200発超を所有するが、日本は持っていない。

 したがって、冒頭の「中国人民網」は、経済力で水をあけられ、軍事力ではるかに後れをとる日本に対して、日米同盟関係を重視し、米国と歩調を合わせて「インド太平洋戦略」を進めると日中関係は悪化するから、菅首相が重視する、経済・貿易協力や、観光等の分野での中国との協力はできなくなる、と脅しているのである。要は、日本経済のためには、日米関係を希薄化してはどうか、と囁(ささや)いているのである。

 一方、11月3日の米大統領選挙でトランプ再選が決まれば、菅内閣は、中国と対峙(たいじ)するアメリカの隊列に加わるようにという強い要求に直面するだろう。米中の狭間(はざま)の日本に「二者択一ではない戦略」などあるはずがない。

 しかし、米中対立時代といっても、中国の「超限戦」の矛先はアメリカにだけ向いているのではない。日本もまた、中国の工作のターゲットになっている。9月14日、中国の国有企業グループ「中国振華電子集団」が豪州や欧米の約240万人分の人物情報を収集していたことが明るみに出たが、その中には日本人関連として、安倍前首相を含む558人の政治家や企業経営者の情報が含まれていた。さらに、逮捕された暴力団組員ら358人のリストもあった。中国の目の付け所に注目すべきである。

◆経済力・軍事力の強化も

 ところで、日本は「二者択一」を迫られているかのようだが、米中間では、対立が激化しても話し合いは継続する。その理由は、アメリカの経済力、軍事力がまだまだ強いからである。中国は、力でアメリカをねじ伏せることはできないし、アメリカとの経済交流を求めざるを得ないのである。そうだとすれば、菅首相が唱える、日中が「常に意思疎通はできる」安定的な状況を実現するための方策は、日本が経済・軍事力を高めつつ、日米がさらに密着することである。経済力・軍事力において単独のアメリカ以上に強大な日米の塊ができれば、中国は各分野で日本の協力を求めざるを得なくなる。

 つまり、中国との安定的な関係は、中国が示唆するように日米同盟を希薄化させることによってではなく、日米同盟のさらなる強化によってもたらされるのである。

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